父の“安心のための現金”が家族の不安に
真理子さんは、父に現金の一部を銀行へ戻すよう勧めました。しかし清さんは簡単には首を縦に振りませんでした。
「通帳に入れたら、自由に使えなくなる気がする」
清さんにとって、手元の現金は単なるお金ではありませんでした。少ない年金でも人に頼らず暮らしているという自信であり、いざというときの命綱でもあったのです。
ただ、現金で置いておくことには別の問題もありました。相続が発生した場合、自宅にある現金も相続財産になります。家族が把握していなければ、相続手続きで混乱したり、申告漏れにつながったりするおそれがあります。また、認知機能が低下すれば、どこにいくら保管したのか本人も分からなくなる可能性があります。
真理子さんは父を責めるのではなく、まず現金の保管場所と金額を一緒に確認しました。そのうえで、当面の生活費として手元に残す分、医療費や介護費に備えて銀行に預ける分、緊急時に娘が確認できるよう記録しておく分に分けました。
「全部取り上げるつもりはないの。ただ、父さんに何かあったときに困らないようにしたいの」
そう説明すると、清さんは少しずつ納得していきました。
後日、真理子さんは地域包括支援センターにも相談し、見守りサービスや今後の介護保険申請について確認しました。お金の問題は、単に残高を把握すれば終わるものではありません。これから父が安全に暮らすために、医療や介護、生活支援とあわせて考える必要があったのです。
「自分の金くらい、自分で管理できる」
清さんは今でもそう言います。それでも、以前のように家のあちこちに現金を隠すことはやめました。
タンス預金は、本人にとっては安心材料かもしれません。けれど、保管場所や金額を家族が知らなければ、紛失、盗難、災害、相続時の混乱につながります。
真理子さんが実感したのは、タンス預金の“末路”ともいえる現実でした。お金の存在や保管場所を家族が知らないことで、いざというときに大きな混乱や負担を招く可能性がある――それが今回の出来事から得た教訓だったのです。
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