「何とかなる」は続かなかった…娘が気づいた親の孤立
夕食後、久美子さんは真理さんにそっと打ち明けました。
「本当は、少し寂しいの」
移住先の人たちは親切でしたが、長年の友人とは違います。都市部にいた頃は、近所の友人と喫茶店で話したり、電車で娘の家へ行ったりできました。しかし今は、外出ひとつにも車が必要です。誠一さんに頼まなければならないと思うと、久美子さんはだんだん家にこもるようになっていました。
誠一さんもまた、移住を決めた手前、弱音を吐けずにいました。庭仕事や家の修繕は思っていた以上に体力が必要で、古い家では水回りや給湯器の不具合も出始めました。退職金1,500万円の一部を住宅購入や引っ越し費用に使ったうえ、修繕費が続けば、老後資金は想定より早く減っていきます。
「こんなはずじゃなかった」
誠一さんは、娘の前で初めてそうこぼしました。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の一人暮らしの人は増加しており、令和7年時点で65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は男性18.3%、女性25.4%と推計されています。夫婦で暮らしていても、どちらかが運転できなくなったり、体調を崩したりすれば、生活の不便は一気に大きくなります。
真理さんは、両親にすぐ戻るよう勧めるのではなく、まず暮らしを立て直す方法を一緒に考えました。自治体の高齢者向け移動支援、配食サービス、地域包括支援センターへの相談、近隣の医療機関の確認。車だけに頼らない暮らし方を探し、家の修繕についても優先順位をつけることにしたのです。
それでも、夫婦は移住を続けるかどうかを改めて考えるようになりました。都市部へ完全に戻るのは簡単ではありませんが、娘の家に近い郊外の賃貸へ移る選択肢もあります。半年で決断するのは早すぎると思う一方、このまま無理を重ねれば、もっと動けなくなってから選択肢が狭まるかもしれません。
地方移住は、決して悪い選択ではありません。ただし、老後の移住では「今できること」だけでなく、「5年後、10年後にも続けられる暮らしなのか」を考える必要があります。
車がなくても買い物や通院ができるか、頼れる人は近くにいるか、家の管理を続けられるか。そうした現実を確認しないまま移住すると、理想の生活が孤立や不安に変わることがあります。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
