(※写真はイメージです/PIXTA)

老後資金は、多くの人にとって大切な安心材料です。年金だけで暮らせるのか、医療費や介護費は足りるのか。そうした不安があるからこそ、貯蓄を守ろうとするのは自然なことです。しかし、将来への備えを重視しすぎるあまり、元気なうちに使えたはずのお金や時間を遠ざけてしまうこともあります。

「減らしたくない」が口癖に…資産4,000万円でも“使えない”

正敏さん(仮名・76歳)と妻の千恵子さん(仮名・74歳)は、夫婦で月24万円ほどの年金を受け取っています。金融資産は約4,000万円。住宅ローンもすでに完済していました。

 

数字だけを見れば、比較的安定した老後に見えます。しかし夫婦の暮らしは長年、質素そのものでした。

 

「お金はあるけど、使うのが怖かったんです」

 

外食はほとんどせず、旅行も日帰りばかり。エアコンの使用も控えめで、冬は重ね着をして過ごしていました。千恵子さんが「一泊くらい温泉に行かない?」と誘っても、正敏さんは決まってこう答えました。

 

「今はまだいいだろう。何があるか分からないんだから」

 

その“何か”は、いつも曖昧でした。

 

病気、介護、家の修繕、物価上昇。どれも現実に起こり得る不安です。けれど、それを理由に夫婦は、楽しみを先延ばしにし続けてきました。

 

総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得が月22万1,544円である一方、消費支出は月26万3,979円となっており、平均では毎月赤字です。多くの高齢世帯が貯蓄を取り崩しながら生活している現実があります。

 

夫婦の年金月24万円も、平均的な消費支出を下回ります。だからこそ、貯蓄を守りたいという気持ちは強くなっていきました。

 

「通帳の数字が減ると、不安になるんです。減らさないことが、ちゃんと老後を守っている証拠のように思えていました」

 

しかし、70代半ばになると、その考えは少しずつ揺らぎ始めます。きっかけは、千恵子さんの膝の痛みでした。

 

以前から「一度は行きたい」と話していた北海道旅行。ようやく具体的に考え始めたころには、千恵子さんは長時間歩くことが難しくなっていました。

 

「もっと早く行けばよかったね」

 

千恵子さんのその一言に、正敏さんは何も返せなかったといいます。

 

 \6月16日(火)開催/
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