「贅沢していないのに減っていく」…母が抱えていた負担
通帳を見ながら、直樹さんは母に一つずつ聞いていきました。すると、預金が減った理由はすぐに見えてきました。
まず大きかったのは、医療費です。
房子さんは膝と腰の痛みで通院しており、薬代やタクシー代がかかっていました。以前はバスで通っていた病院も、最近は歩くのがつらくなり、片道だけでもタクシーを使うことが増えたといいます。
さらに、古い家の修繕も重なりました。
給湯器の交換、雨どいの修理、エアコンの買い替え。どれも先送りできない支出でした。
「大きな贅沢は何もしていないのに、少しずつ減っていったの」
房子さんは、ぽつりと言いました。
加えて、光熱費や食料品の値上がりも響いていました。
総務省『消費者物価指数』でも、近年は食料品やエネルギー関連の価格上昇が家計に影響していることが示されています。高齢者の一人暮らしでは、収入が大きく増えにくいため、物価上昇はそのまま生活の圧迫につながりやすくなります。
直樹さんがつらかったのは、母がそれを隠していたことでした。
「どうして言ってくれなかったの?」
そう尋ねると、房子さんは小さく笑いました。
「あんたも大変でしょう。子どもにお金がかかるんだから」
直樹さんには大学受験を控えた娘がいます。房子さんは、それを気にして援助を求められなかったのです。
「母は節約していたんじゃなくて、我慢していたんだと思いました」
その後、直樹さんは母と家計を見直しました。
病院へは地域の移動支援を利用できないか確認し、配食サービスや見守りサービスについても地域包括支援センターに相談しました。古い家に住み続ける場合の修繕費も、今後は直樹さんが一緒に把握することにしました。
房子さんは最初、遠慮しました。
「そこまでしてもらわなくていい」
しかし直樹さんは、こう伝えました。
「お金を出すかどうかだけじゃなくて、ちゃんと知っておきたいんだ」
高齢の親の暮らしは、「年金がいくらあるか」だけでは判断できません。持ち家でも、医療費や移動費、修繕費はかかります。節約しているように見えても、実際には必要な支出を我慢しているだけの場合もあります。
そして、その我慢は、周囲からは見えにくいまま積み重なっていきます。「大丈夫」という言葉をそのまま受け取るのではなく、生活の実態や小さな変化に目を向けることが、家族にできる支えになるのかもしれません。
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