(※写真はイメージです/PIXTA)

孫の成長は、祖父母世代にとって大きな喜びです。遊びに来てくれるだけで家の中が明るくなり、つい好物を用意したり、小遣いを渡したくなったりする人も少なくありません。しかし、年金生活に入ると、かつて当たり前にできていたことが、少しずつ負担になることがあります。孫をかわいがりたい気持ちと、自分の生活を守らなければならない現実の間で、悩む高齢者もいます。

「ごめん、今日はあげられないの」…初めて漏らした本音

悠真くんが次に遊びに来たのは、春休みのある午後でした。

 

和枝さんはいつものように麦茶を出し、冷凍していた唐揚げを温めました。悠真くんは学校の話をし、友達とゲームをしていることを楽しそうに話しました。

 

その時間は、和枝さんにとって確かに幸せでした。しかし帰り際、悠真くんが何気なく言いました。

 

「ばあば、今日もお小遣いある?」

 

和枝さんは一瞬、言葉に詰まりました。いつも渡していた封筒は、用意できていませんでした。財布の中には数千円しかなく、月末までの食費と病院代を考えると、とても1万円を渡せる状況ではなかったのです。

 

「ごめん、今日はあげられないの」

 

悠真くんは少し驚いた顔をしましたが、すぐに「わかった」と言いました。けれど和枝さんには、その表情が忘れられませんでした。

 

その夜、長女から電話がありました。

 

「お母さん、悠真にそんなに渡してたの?」

「1万円なんて多すぎるよ。無理してたんじゃないの?」

 

和枝さんは、初めて本音を漏らしました。

 

「無理してたつもりはなかったの。でも、最近は本当に苦しくて……」

 

高齢者の生活は、外から見るだけでは分かりにくいものです。持ち家があり、年金が入っていると、「何とか暮らせている」と家族は思いがちです。しかし、光熱費や食費の上昇、通院費、家の維持費が重なると、小さな支出の積み重ねが生活を圧迫します。

 

長女は、その後、悠真くんと話し合いました。

 

「ばあばの家に行くのは、お金をもらうためじゃないよね」

 

それから和枝さんの家では、来訪時の小遣いをやめることになりました。代わりに、一緒におやつを作ったり、近くの公園を散歩したりする時間を大切にしています。

 

「最初は寂しかったです。でも、孫が“ばあばの唐揚げ食べたい”って言ってくれて、少し救われました」

 

家族への愛情は、ときに“無理をすること”と結びついてしまいます。しかし、支える側の生活が崩れてしまえば、その関係は長く続きません。

 

「もう余裕がない」。それは、これからも孫と穏やかに関わっていくために、ようやく言えた大切な一言だったのです。

 

 

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