ハンドクリームの常識を覆した使用法革命
ある製薬会社のロングセラー商品は、成分もデザインも変えることなく、使用法の認識転換だけで市場を拡大した好例です。
ハンドクリームというカテゴリーには長年、「手荒れ・指先」「少量をこまめに」「手専用で使う」という固定化された認識がありました。メーカー側もその認識を疑うことなく踏襲していたため、消費量は伸び悩み、再購入サイクルも長期化。多くの家庭で1年に1個あれば足りる商品として扱われていたのです。
この課題に対して私たちが提案したのは、「使用法に対する認識転換」でした。商品の中身を変えることなく、「どこに」「どれだけ」「どう使うか」という認識そのものを変えることに注力したのです。まず行ったのは、「指先だけのケア」から「手全体のケア」への転換でした。手荒れは指先だけでなく、手のひら、甲、関節など広範囲で起こっています。
そこで私たちは、塗る動作そのものを「ハンドマッサージ」と名づけ、塗布とマッサージを組み合わせた新しい使い方を提案しました。親指の付け根を、円を描くようにほぐし、指の股から先に向かってマッサージする。このひと手間が、血行促進と保湿効果の体感を高め、単なるケアからハンドクリームを塗ること自体を習慣へと変化させました。
さらに、「ハンドクリーム=手専用」という思い込みを壊すため、全身のパーツケアへの展開を打ち出しました。特に乾燥が深刻なかかとやスネに注目し、「スネに塗って寝る」「かかとにたっぷり塗って靴下を履いて寝る」といった、少し特別な使い方を提案したのです。この発想は、従来のハンドクリームの延長線上にありながらも、まったく新しい行動を生みました。消費者にとっては「なるほど、そんな使い方があるのか」というレベル3の驚きでした。
「象徴」の設計では、「プラスひと手間」をテーマにパーツケア専門ブランドとして位置づけました。ハンドクリーム市場では珍しく、使用法を中心にメッセージを設計したのです。広告や店頭では「塗るだけでなく、ほぐす」「手だけでなく、かかとにも」というビジュアルを用い、商品よりも行動そのものを象徴化しました。これにより、「医薬品系クリーム=効く」という事実だけでなく、「ひと塗りで体をいたわる」という感情的価値が加わり、ブランドの印象そのものが温かみを帯びたのです。
「現象」との接続では、メディアや小売りの構造変化をうまく活かしました。健康・美容メディアでは「セルフケア」「パーツケア」が注目され、生活者の間でも「手だけでなく全身をケアする」という意識がそもそも高まっていました。私たちはこの流れを受け、ハンドクリーム売り場に加えてフットケアコーナーでも展開。雑誌やテレビでは「今、ハンドクリームを全身に使う人が増えている」という報道が相次ぎました。この社会的現象化により、手だけに塗るのはもったいないという新しい常識が生まれたのです。
そして「納得」の設計では、科学的根拠に基づいた具体的な使い分けを提示しました。かかとの角質には尿素系、手荒れやあかぎれにはビタミンE誘導体、全身保湿には保湿剤系――というように、肌の悩みに応じた選び方を明示しました。これにより、消費者は「なんとなく良さそう」ではなく、「自分の悩みに合わせて選べる」という合理的な納得を得られたのです。また、「ハンドクリームを全身に使う=贅沢」という納得、「忙しい時代に効率よくケアできる」という納得も重なり、使用行動が定着しました。
結果として、この商品は「指先にちょっと塗るクリーム」から「全身のパーツケアができる専門クリーム」へと認識を一新しました。
商品の本質を変えずに、使い方の認識だけを刷新したこの取り組みは、顧客や私たちにとっても大きな仕事となったと感じています。使用量は増加し、再購入サイクルも短縮。多くのユーザーが「手だけでなく足にも使う」という行動変容を起こしたことで、ブランドは再び生活者の日常のなかに息づく存在となったのです。
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