親が高齢になるほど、問題は深刻化する
内閣府の「高齢社会白書」によれば、いわゆる「8050問題(※)」は、社会課題のひとつとして取り上げられています。80代の親が50代の子どもの生活を支え続けるケースは各地で見られ、親自身の高齢化や介護問題が重なることで、経済的・精神的負担が深刻化しやすいことも指摘されています。
(※)80代の親が、50代の未婚・無職・ひきこもり状態などにある子どもの生活を支え続けることで、親子ともに社会的に孤立し、生活困窮や介護問題などを抱えやすくなる社会問題。
十分すぎるほどの資産がある相沢家のケースは、一般的な「8050問題」とは少し事情が異なります。しかし、「高齢の親が成人した子どもの生活を支え続けている」という構図そのものは共通しています。
正夫さん夫婦は、相続について真剣に話し合うようになりました。
「将来、巨額の資産をそのまま残すことが、本当にいいことなのだろうか」
正夫さん夫婦が恐れていたのは、単に「お金を使い果たすこと」ではありません。お金を管理する力や社会とつながる力が育たないまま、息子に高額資産を引き継ぐ。その結果、悪質商法や投資詐欺、事件に巻き込まれたり、孤立を深めたりすることを、夫婦は強く不安視するようになっていました。
ずっと「最終的には息子に残すものだ」と考えていましたが、一部資産について寄付や社会貢献団体への遺贈も検討しているといいます。
「お金を残すことが、子どもへの愛情だと思っていました。でも、その結果として生活力まで奪ってしまうのなら、残さないほうがいいのかもしれません」
専門家の視点:資産が多い家庭ほど「どう引き継ぐか」が重要
正夫さん夫婦は「そのうち働くだろう」と信じ、長年見守り続けてきました。もちろん、子どもの人生を親が支配すべきではありません。しかし、生活を支え続けながら何も変えないことが、結果として本人の選択肢を狭めてしまう場合もあります。
若い時期に就労支援や第三者のサポートにつながっていれば、今とは違う選択肢があった可能性もあります。「放っておくこと」と「本人を尊重すること」は、必ずしも同じではないのです。
とくに資産が多い家庭では、「最後は財産がある」という安心感から、親子ともに将来の生活設計が曖昧になってしまうことがあります。しかし本来、相続や資産承継は、単に「お金を渡すこと」ではありません。大切なのは、財産を受け取る側が、その後も社会の中で生きていけるかという視点です。
そのため、支援のルールや相続の考え方について早い段階から話し合い、「何を残すか」だけでなく「どう引き継ぐか」を考えることが重要です。家族だけで抱え込まず、必要に応じて、就労支援機関や福祉、信託、後見制度など外部の専門家を交えながら準備を進めることも有効でしょう。
新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFP®
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