「俺はATMなのか」―仕事を辞めたい58歳会社員の苦悩
東京都内に住む与田幸一さん(58歳・仮名)は、メーカー企業に勤務する会社員です。年収は約850万円。幸一さんは早くから資産運用に取り組み、夫婦の金融資産は約6,500万円を突破しました。自宅の住宅ローンは完済しており、子ども2人も独立しています。
客観的に見れば、順風満帆の人生。しかし近年は管理職としての責任が重くなり、慢性的な疲労やストレスを感じるようになりました。
「お金はもう十分ある。60歳の還暦を迎えたら退職して、旅行や趣味を心行くまで楽しみたい」
会社には65歳までの再雇用制度がありましたが、そこまで働く気はありませんでした。意を決して、パート勤務(年収120万円)の妻・雅子さん(56歳)に「60歳で仕事を辞めようと思う」と切り出します。
しかし、返ってきたのは冷ややかな言葉でした。
「そんなに早く退職されたら困るわ。今辞めたら年金も増えなくなるし、家に毎日いられるのも、ちょっとね……」
幸一さんは、その言葉に大きなショックを受けました。
「俺は家族のために身を粉にして働いてきたのに、まだ働けというのか?」
お金のことだけならまだしも、「家にいられると困る」という妻の本音。“外に出て稼がなければ、自分には価値はないのか”と、まるで自分が「お金を運ぶATM」のような存在に思えて、暗澹(あんたん)たる気持ちに陥ってしまったのです。

