「親のお金があるのに、なぜ働くの?」
「自分たちが死んだ後、この子はどうするんだろう」
ここ数年で、体力の衰えを如実に感じるようになった正夫さん。裕一さんに対し、「安定した仕事を探す気はないのか」と真剣に伝えました。
しかし、返ってきたのは、正夫さんにとって非常に重い言葉でした。
「だって、うちにはお金がある。それで生きていけるのに、なんでそんなに働かなきゃいけないの?」
さらに裕一さんは、悪気なくこう続けたといいます。
「どうせ最後は俺が相続するんでしょ?」
正夫さんは言葉を失いました。裕一さん自身に強い悪意があったわけではありません。しかし、「親が助けてくれる」「生活に困ることはない」という感覚が、裕一さんの中で当たり前になってしまっていたのです。
気づかないうちに奪っていた「自立する理由」
正夫さん夫婦は、息子を甘やかそうとしていたわけではありません。「苦労させたくない」「追い詰めたくない」「親として見放すことはできない」。そんな思いから、必要な生活費を出し続けてきました。
しかし現在、正夫さん夫婦は「自立する理由を、親の自分たちが奪ってしまっていたのかもしれない」と思うようになったといいます。
「働かなくても生活できる状態」が長く続けば、就労意欲や危機感は薄れていきます。もちろん、病気や心の不調などで働けない場合には支援が必要です。しかし、「働けない」のではなく、「働かなくても困らない」状態が続くケースでは、家族だけで抱え込むほど問題が長期化しやすくなります。

