老後は「お金」と「人」の両輪で備える…FPが提案する3つの視点
綾子さんの事例から、老後設計において重要な3つの視点について解説していきます。
1.「家族に頼る」ことを老後設計の前提に置かない
子どもがどれほど優しい人であっても、子世代には子世代の家計があります。総務省「家計調査(貯蓄・負債編)2024年平均」によれば、世帯主が40から49歳の二人以上世帯の平均貯蓄現在高は1,314万円である一方、平均負債現在高は1,445万円。負債を抱える世帯の割合は69.0%にものぼり、全年齢階級のなかで最も高くなっています。つまり、子世代は見た目以上に余裕がないのが実態なのです。
2.年金は「額面」ではなく、「自由に使える金額」を正確に把握する
綾子さんの場合、月12万円の年金から固定費を差し引いた可処分所得は約3万円です。総務省「家計調査(2025年)」によれば、65歳以上の単身無職世帯の月平均消費支出は14万9,286円。これに対して年金を含む社会保障給付は月12万1,629円ですから、毎月およそ2万7,000円ずつ貯蓄を取り崩している計算になります。家計表を一度きちんと作成し、何年間この生活を続けられるかを把握しておく。これが孤立を防ぐ最初の一歩になります。
3.「人とのつながり」も老後の資産だと捉える
地域包括支援センター、自治体のシニアサロン、図書館の読書会、寺社のお茶会。月数百円から、場合によっては無料でも参加できる場は驚くほど多く存在します。お金の備えと同じく、人間関係も「一点集中」ではなく「分散投資」が安心につながるのです。
「わたくし、息子に頼ることばかり考えてきましたが、まずは近所の集まりに顔を出してみます。お金のほうも、見直していただけますか」
そう話す綾子さんの目には、相談当初とは違う、静かな決意がにじんでいました。
家族との関係は、お金と同じように、長い年月をかけて積み上げるものです。そして、ときに崩れ、ときに形を変えていくもの。だからこそ、家族との距離が変わって自身の人生を支えられる「もう一つの土台」を、いまから少しずつ築いておく。本記事が、より多くの方の暮らしを見つめ直すささやかなきっかけになりましたら、筆者としてこれほど嬉しいことはありません。
波多 勇気
波多FP事務所 代表
ファイナンシャルプランナー
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