「貯めるだけの人生」は、あの日終わった…風呂場で失神、〈1億円の通帳〉を前に放心した66歳おひとりさま男性の告白。老後もあえて「アルバイト生活」を志願、余生で手にした人生の勝利【FPが解説】

「貯めるだけの人生」は、あの日終わった…風呂場で失神、〈1億円の通帳〉を前に放心した66歳おひとりさま男性の告白。老後もあえて「アルバイト生活」を志願、余生で手にした人生の勝利【FPが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

目標としていた資産を築き上げた瞬間に、ふと「このお金をなんのために使うのか」という問いに立ち止まってしまう人がいます。資産を蓄え切ったあとに覚える“虚無感”の正体とは? 先日、66歳の男性が、FPである波多勇気氏の波多FP事務所を訪ねてきました。「お金の使い方がわからなくなった」と話すその表情には、まるで覇気がなくて――。※紹介する事例は、相談者より許可を得て、プライバシー保護の観点から相談者の個人情報および相談内容を一部変更して記事化しています。

66歳男性、風呂場で死を覚悟

「私、お金の使い方がわからなくなってしまったんです」

 

そう淡々とした口調で切り出されたのは、当事務所に相談に来た田中誠一さん(仮名/66歳)。彼は大手メーカーを定年退職し、結婚はせず、ひとりっ子で、両親もすでに他界しています。文字どおり、家族のいない「おひとりさま」です。

 

「現役時代から節約と投資を続けてきまして、いまは金融資産が約1億1,000万円あります。来年から年金も受け取れますし、お金の心配はないはずなんです」

 

一般的に、これほどの資産があればFPの助けはいらないと思われるかもしれません。しかし、当事務所には田中さんのような「おひとりさまの富裕層」が少なからず訪れます。彼らの悩みは、お金を「増やすこと」ではなく、「どう出口(死に際)を設計するか」にあります。

 

「持っていること」への悩みは、友人や知人には自慢や嫌味に聞こえてしまい、誰にも打ち明けられず、利害関係のない第三者は、彼にとって唯一の本音を吐き出せる場所でした。

 

「先月、自宅の風呂場で失神しまして。長湯のしすぎで気を失ったらしいんです。気がついたら浴槽でうつぶせになっていて、口元が水面ぎりぎり。あと数センチ深かったら、死んでいたと思います」

 

田中さんはそこで一度言葉を切りました。

 

「翌日、銀行の通帳を眺めました。見慣れた残高の数字をみても、なにも感じなかったんです。ああ、いま自分が死んでも、このお金は国庫に入るだけなんだな、と」

 

筆者は相談業務のなかで、こうした場面に何度も立ち会ってきました。相談のきっかけは、「相続人がいないため、どうすればいいか」といったものから始まります。しかし、対話を重ねるうちに、真の問題が浮き彫りになるのです。

 

田中さんのように規模の資産を持ちながら、驚くほど質素な暮らしを続けている方は少なくありません。筆者が「これだけの余裕があるのなら、もっと贅沢をしてもいいのでは」と進言しても、多くの方は「やりたいことがないんです」と寂しげに回答されます。

 

そこにあるのは、「生活レベルを上げる恐怖」です。「一度上がった生活レベルは簡単には戻せない」という通説が、彼らのなかでは呪縛のように強く作用しています。贅沢を覚えることで、これまで自分を支えてきた「質素で堅実な自分」が壊れてしまうのではないか。その恐怖に耐えられず、お金を抱え込んだまま、身動きが取れなくなってしまうのです。

 

「アルバイトを始めようかと思うんです。1億円あるのに、おかしいでしょうか」

 

それは、おかしな決断ではありません。むしろ、田中さんが自分の人生を取り戻すための合理的な選択といえるでしょう。

 

 

次ページ誰にも気づかれずに日常を過ごす人たちが増えた社会

※プライバシーのため、実際の事例内容を一部改変しています。

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