押し入れの天袋の奥、紙袋も丸ごと処分
問題の紙袋を見つけたのは、片付けも終盤のこと。押し入れの天袋の奥。古い紙袋の中には、黄ばんだ封筒や古いメモ帳のようなものが無造作に入っていました。
「こんな古いの、取っておいても仕方ないわよね。だってあの人、全然見てる様子ないもの」
洋子さんは、中身を細かく確認することなく処分しました。
それから半年ほど経った頃、隆一さんは体調不良を訴え、入院。診断の結果は、「もう健康になって家に帰ることは叶わないかもしれない」――そんな急転直下の事態でした。
静かに受け入れていた隆一さんが、ある日、洋子さんにこう話しかけました。
「悪いが、押し入れの奥にある紙袋を見たいんだ。どうにか持ってこれるか?」
押し入れの紙袋――。洋子さんが家に帰ってみると、そんなものはありません。そこで、ようやく片付けの際にそれを捨てたことを思い出しました。
「勝手に捨てるなんて…」忘れられない夫の落胆
翌日、病院の隆一さんにこう言いました。
「あなた、あの紙袋捨てちゃったのよ。大切なものだったの?」
――次の瞬間、普段は温厚な隆一さんが声を荒らげました。
「なんで勝手に捨てるんだ!」
紙袋の中には、隆一さんの亡き母からの手紙が入っていたというのです。若い頃、実家を離れて働いていた隆一さんに、母親が送ってきた何気ない近況報告。ほかにも、父親の字で書かれた住所録、実家で撮った古い写真なども入っていたといいます。
「そんな大切なものを、紙袋に雑多に入れてるなんて思わないじゃない。それに、大事な物なら、私が片付けているときに言ってくれればよかったじゃない」
洋子さんがそう言うと、隆一さんは「まさか、人の物まで勝手に捨てるとは思わなかったんだ」。そう言って、黙り込みました。
そのときの夫の落胆が、洋子さんはいまも忘れられないといいます。そして、それ以降二度とその話に触れることなく、隆一さんは帰らぬ人となりました。

