61歳男性が選んだ“第二の挑戦”
東京都内に住む誠一さん(仮名・68歳)は、役職定年をきっかけに60歳で長年勤めたメーカーを退職しました。
退職時点での貯蓄は約7,000万円。住宅ローンも完済しており、65歳以降は夫婦合わせて月20万円ほどの年金受給を見込んでいました。
「“何もしない老後”を過ごすのが怖かったんです」
誠一さんは、もともと料理が趣味でした。取引先との会食でも店選びを任されることが多く、「いつか自分の店を持ちたい」という夢を長年抱えていたといいます。
退職後、61歳でその夢を形にする決断をしました。
駅から少し離れた場所に、小さな惣菜と弁当の店を開業。店舗改装費や設備費などを含め、開業資金には約2,000万円を投じました。
妻の恵子さん(仮名)は当初、不安を感じていました。
「もう十分働いたんだから、ゆっくりすればいいのに」
しかし誠一さんは聞きませんでした。
「今やらなかったら、一生後悔すると思ったんだ」
開業当初、店は順調でした。
「会社員時代より生き生きしてるね」と言われることもあったといいます。誠一さん自身も、朝早く市場へ向かい、仕込みをし、店頭に立つ毎日に充実感を覚えていました。
中小企業庁『2024年版中小企業白書』でも、定年後に新たな事業へ挑戦するシニア世代の動きがみられます。
開業直後にはコロナ禍にも直面し、一時は客足が大きく落ち込んだものの、テイクアウト販売などでなんとか店を続けてきたといいます。
しかし、状況は少しずつ変わっていきました。まず重くのしかかったのが、体力でした。
朝5時からの仕込み、長時間の立ち仕事、仕入れ。現役時代とは違い、疲労は翌日に残るようになります。
さらに、原材料費の高騰も直撃しました。
「値上げすると客が減る。でも値上げしないと利益が残らない」
光熱費や食材費が上がる一方、個人経営の小規模店では価格転嫁にも限界があります。
総務省『消費者物価指数』でも、近年は食料品や光熱費を中心に物価上昇が続いており、負担感が強まっています。
加えて、店を続けるために誠一さんは貯蓄を切り崩すようになりました。
「最初は“軌道に乗るまで”のつもりだったんです」
しかし赤字は思った以上に長引きました。
