(※写真はイメージです/PIXTA)

まとまった資産を築けば、老後は安定する――そう考える人は多いものです。しかし、実際の生活は収入・支出・家族状況・運用の判断などが複雑に絡み合い、想定通りに進むとは限りません。総務省『家計調査(2025年)』によると、二人以上の高齢無職世帯の消費支出は月約26.4万円にのぼります。一定の資産があっても、収入が途絶えた状態で長期間取り崩しが続けば、前提は簡単に崩れていくもの。資産額そのものより、「どう使うか」「どう守るか」がその後を大きく左右します。

「もう働かなくていい」1億円超の資産で選んだ早期リタイア

都内で証券会社に勤務していた山本さん(仮名・56歳)は、長年の投資と貯蓄で、口座残高1億2,000万円を築きました。金融の知識もあり、資産運用には自信がありました。

 

「正直、“ここまで来たか”という達成感がありました。これだけあれば、もう働かなくてもいいと思ったんです」

 

妻と大学生の子ども1人の3人暮らし。住宅ローンは完済しており、教育費も「あと数年で終わる」と見込んでいました。山本さんは定年を待たず、56歳で退職を決断します。

 

退職後は、配当収入と資産の取り崩しを組み合わせた生活を想定していました。生活費は月25万円前後に抑え、運用利回りを年3%程度で維持できれば問題ない――そう計算していたといいます。

 

「数字上は成立していましたし、これまでの経験からも“いける”と思っていました」

 

当初の生活は順調でした。平日の時間に余裕が生まれ、夫婦で旅行に出かけたり、趣味に時間を使ったりと、いわゆる“理想のリタイア生活”に近い日々を送っていました。

 

転機は、リタイアから2年ほど経った頃でした。

 

市場環境の変化で、想定していた運用利回りが安定しなくなります。配当収入も想定を下回る場面が増え、「このままでは資産が減る一方になる」という不安が強まっていきました。

 

「減ること自体より、“増えない状態が続く”ことに焦りを感じました」

 

そこで山本さんは、運用方針を変更します。より高いリターンを狙い、一部資産を個別株や新興市場、さらにはレバレッジを効かせた商品に振り向けました。

 

「知識はあるつもりでしたし、タイミングも悪くないと思っていました」

 

しかし、この判断が結果的に大きな転機になります。

 

市場の変動が想定以上に大きく、短期間で評価額が大きく下落。損失を取り戻そうと追加投資を行ったことで、損失はさらに拡大しました。

 

「冷静に見ればリスクを取りすぎていました。でも、そのときは“ここで引いたら負けだ”という感覚になってしまっていたんです」

 

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