「私は平気」気丈な母…長女が見落としていた小さな変化
パート勤務をする芳恵さん(仮名・52歳)は、団地で一人暮らしを続ける母・雅子さん(仮名・78歳)のことを、どこかで「何とかやれているのだろう」と思っていました。父を亡くしてから十数年。母の収入は年金月13万円で、家賃の低い団地に住んでいることもあり、本人はいつも「贅沢しなければ十分」と言っていたそうです。
「何か送ろうか、手伝おうかと聞いても、“平気よ”“子どもに頼るほどじゃない”と返されることが多かったんです」
雅子さんはもともと気丈な性格で、人に弱みを見せるのを嫌うタイプでした。電話でも「今日は煮物を作った」「近所の人と立ち話をした」と、ささいな日常を明るく話していたといいます。
ただ、芳恵さんは少しずつ違和感を覚えるようになっていました。実家に行くたびに、冷蔵庫の中が思っていたより寂しい。買い置きの食材は少なく、野菜も果物もほとんど見当たらない。以前は常備していた総菜やヨーグルトもなくなっていました。
「食べてるの?」と聞くと、母は笑ってこう返したそうです。
「年を取ったらそんなにいらないのよ。1日2食で十分」
最初は、そういうものかと思っていたと芳恵さんは振り返ります。高齢になると食が細くなることは珍しくありませんし、本人がそう言うなら、無理に口を出すのも違う気がしたからです。
ですが夏の終わりごろから、母の声にははっきり疲れがにじむようになりました。電話をしても出ない日があり、折り返しがあっても「少し寝ていた」と短く済ませる。会ったときも、以前よりやせた印象が強くなっていました。
ある日、雅子さんのもとに団地の管理人から連絡が入りました。新聞が数日分たまっていることを不審に思った住民の通報で室内を確認したところ、和子さんが倒れており、救急搬送されたというのです。
あわてて病院へ駆けつけると、母はベッドに横たわっていました。意識はありましたが、顔色は悪く、点滴がつながれていたといいます。
「そのとき初めて、これは“少食”とか“節約”の話じゃないと思いました」
救急搬送の結果、重い病気ではなかったものの、脱水と栄養不足が重なっていたことが分かりました。医師からは「食事量がかなり落ちていますね」と言われたそうです。
