経営者にのしかかる「防衛特別法人税」「社会保険負担」の重み
「黒字なのに、お金が残らない」という悩みは、中小企業の経営の現場でしばしば聞かれることですが、2026年以降、さらにこの状況が厳しくなる可能性があります。
理由は「防衛特別法人税」と「社会保険負担」の増加で、これらが2つ同時に企業のキャッシュを圧迫してくるからです。厄介なのは、どちらも「帳簿上の話」ではなく、実際に現金が出ていく負担であるという点です。
利益が出れば税金が増え、人を雇えば社会保険料が増えます。真面目に経営している会社ほど手元資金が削られやすい構造が、これまで以上に明確になるのです。
算出された法人税額に対して4%…「防衛特別法人税」
まず、防衛特別法人税についてです。
これは法人税額に対して約4%を上乗せする仕組みです。ポイントは、「利益に対して4%」ではなく、「算出された法人税額に対して4%」という点です。つまり、利益が増えて法人税額が大きくなれば、その分だけ追加負担も増えていきます。
例えば、法人税額が1,000万円であれば追加負担は40万円、2,000万円であれば80万円です。数字だけ見ると、そこまで大きくないように感じるかもしれません。ただ、経営ではこうした負担は単独では考えません。実際には、他のコスト増と重なったときに効いてきます。
今回でいえば、その代表が社会保険負担です。社会保険についても、今や一部の大企業だけの問題ではありません。適用対象の拡大や保険料率の見直しによって、企業側の負担はじわじわと増えています。特に中小企業にとっては、人件費の一部として毎月確実に出ていくため、資金繰りへの影響を強く感じやすい負担です。税金は決算後にまとめて支払うためイベント的に認識しやすいのに対し、社会保険料は毎月の固定費として継続的に重くのしかかってきます。
ここで、具体的な数字を見てみましょう。
年商3億円、営業利益3,000万円の会社を想定します。実効税率を約30%とすると、法人税等は約900万円です。ここに防衛特別法人税の4%が加わると、追加負担は約36万円となります。
これだけなら、まだ吸収できると感じるかもしれません。
「防衛特別法人税」プラス、「社会保険料」の負担が増えたら…
しかし、同時に社会保険負担が増えた場合は話が変わってきます。
たとえば、従業員10名の会社で、1人あたりの社会保険料の会社負担が月3万円増えたとします。すると、年間では360万円の負担増になります。これに防衛特別法人税の36万円を加えると、年間で約396万円、つまり約400万円近いキャッシュ流出増になる計算です。
営業利益3,000万円の会社にとって、年間約400万円の負担増は決して小さくありません。利益の1割を超える水準が追加的に流出することになります。もちろん、実際の税額や社会保険料は会社ごとに異なります。
ただ、ここで大事なのは厳密な数字そのものではなく、利益が出ている会社ほど、想像以上にキャッシュが削られやすい構造になっていることです。
しかも、これらはすべて現金で出ていくコストです。法人税は納付のタイミングでまとまった現金流出が発生しますし、社会保険料は毎月着実に出ていきます。そのため、損益計算書の上では黒字でも、資金繰りはどんどん苦しくなることがあります。いわゆる「黒字なのにお金がない」という状態です。
特に影響を受けるのは、赤字企業ではなく黒字企業や成長企業です。赤字企業はそもそも法人税額が小さい、あるいは発生しないため、防衛特別法人税の影響は限定的です。
一方で、しっかり利益が出ている会社は法人税額も大きくなりますし、人を増やしている会社ほど社会保険負担も増えます。つまり、真面目に利益を出し、雇用も守っている会社ほど、この制度変更の影響を強く受けやすいわけです。
「キャッシュを残す経営」へのシフト
では、どう考えるべきでしょうか。
結論としては、「利益を出さない」ではなく、「キャッシュを残す経営」に発想を切り替えることが重要です。これからは、損益計算書上の利益だけでなく、その利益が最終的にどれだけ手元に残るのかまで見ていかなければなりません。
そのためには、まず利益予測の精度を上げることが欠かせません。決算直前に慌てて対策を考えるのではなく、月次で利益の着地見込みを把握し、税額や資金流出を事前にシミュレーションしておくことが大切です。早めに見えていれば、打てる手も増えます。
また、キャッシュアウトのタイミングを意識する視点も重要です。設備投資、役員報酬の設計、リースの活用など、単に経費になるかどうかではなく、「いつ現金が出ていくのか」という観点で判断する必要があります。節税だけを目的に利益を消すのではなく、キャッシュを守るために何が有効かを考えることが、これからますます重要になります。
さらに、社会保険負担を前提にした組織設計も欠かせません。人を増やせば売上が伸びる時代ではなくなりつつある中で、業務の効率化、外注、AI活用などを組み合わせながら、少人数でも付加価値を出せる体制をつくっていくことが求められます。単なるコスト削減ではなく、固定費の増加に耐えられる経営体質をつくることが必要です。
防衛特別法人税と社会保険負担の増加は、単なるコスト増ではありません。企業のキャッシュ構造そのものを変えるインパクトを持っています。これからは、「いくら利益が出たか」だけでなく、「いくら現金が残るか」を軸に経営を考える必要があります。利益を出すこと自体は悪いことではありません。
ただ、その利益をどう守り、どう未来のキャッシュとして残すかまで設計できるかどうかが、これからのオーナー社長や自営業者の分かれ目になります。
黒字でも苦しい会社になるのか。それとも、利益を出しながらしっかりお金を残せる会社になるのか。その差は、すでに生じ始めています。
辻 哲弥
公認会計士・税理士
税理士法人グランサーズ 代表社員
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