防衛付加税導入…企業の「成長スピードそのもの」に影響
2026年4月以降、法人税額が一定水準(目安として500万円超)となる企業に対して、「防衛付加税」が課されることになるのをご存じでしょうか?
この制度の特徴はシンプルで、「利益が出ている企業ほど追加的な税負担が生じる」というものです。従来の法人税率に上乗せされる形で負担が増加するため、同じ利益水準であっても、最終的な手残りは確実に減少します。
ここで重要なのは「税率が上がる」という事実そのものではありません。意思決定に与える影響の問題です。
例えば、以下のようなケースです。
●今期は好調で、利益が大きく伸びた
●来期に向けて採用や設備投資を検討している
●しかし、税負担増により手元資金が想定よりも減少する
この場合、本来であれば実行できたはずの投資が、資金制約によって見送られる可能性があります。つまり、防衛付加税は単なる税負担の問題ではなく、企業の成長スピードそのものに影響を与える制度だといえます。
社会保険適用拡大がもたらす「キャッシュアウト」
さらに見逃せないのが、2026年10月に予定されている社会保険の適用拡大です。いわゆる「106万円の壁」の見直しにより、短時間労働者への社会保険適用が拡大されます。
この改正の影響は、主に以下の点に現れます。
●これまで社会保険の対象外であった従業員が、新たな対象に
●会社負担分の社会保険料増加
●固定費としての人件費上昇
ここで注意すべきは「社会保険料はキャッシュベースで確実に流出するコスト」であるという点です。
税金は利益に対して課税されるため、利益調整によってある程度コントロール可能な側面があります。一方で、社会保険料は人員構成に依存するため、短期的に削減することは困難です。つまり、
●税金:P/L(損益)に影響
●社会保険料:C/F(資金繰り)に影響
という形で、異なる角度から企業の体力を削っていきます。
優良企業ほど不利に!? 悩ましい構造
今回の制度変更を俯瞰すると、ひとつの特徴が見えてきます。それは、適切に経営している企業ほど負担が増える構造になっている点です。
●利益を出している企業 → 防衛付加税の対象
●人を雇用している企業 → 社会保険負担の増加
結果として、成長している企業ほど、キャッシュアウトが増えるという状況が生まれます。
もちろん、これは政策的な意図に基づくものですが、経営者としては制度の是非を論じるよりも、前提条件として受け入れたうえで対応策を講じることが重要です。
なぜ「今期中のシミュレーション」が必要なのか
実務の現場でよく見られるのは「決算が近づいてから慌てる」というケースです。
しかし、この対応では間に合いません。理由は明確で、税金も社会保険も事前に予測可能なコストだからです。
例えば、以下のような観点でのシミュレーションが必要です。
●今期の利益見込みに対する税額(防衛付加税を含む)
●来期以降の人員構成に基づく社会保険料の増加額
●税引後キャッシュの推移
●借入返済や投資計画との整合性
これらを事前に把握することで、
●投資を実行すべきか
●採用をどのタイミングで行うべきか
●資金調達を先行させるべきか
といった意思決定の精度が大きく変わります。
逆にいえば、これを行わない場合、結果として資金繰りの悪化を招くリスクが高まるということです。
最低限押さえるべき財務指標
キャッシュ防衛という観点から、特に重要となる指標は以下の3つです。
① 税引後利益
最終的に企業に残る利益であり、配当や内部留保の原資となります。
② 営業キャッシュフロー
本業によって実際に生み出された現金の増減を示します。黒字であってもここがマイナスであれば、資金繰りは悪化します。
③ 税・社会保険負担率
利益に対してどの程度の割合が税金・社会保険料として流出しているかを把握する指標です。これらを継続的にモニタリングすることで、単なる「利益の増減」ではなく、キャッシュの実態を把握することが可能になります。
自営業者・オーナー社長が陥りやすい盲点
特に注意が必要なのは、自営業者やオーナー社長です。
●税務は税理士に任せている
●資金繰りは通帳残高ベースで把握している
●将来の税負担を織り込んでいない
このような状態では、制度変更の影響を正しく認識することができません。
結果として、
●納税資金の不足
●社会保険料の支払い負担増
●短期借入への依存
といった問題が発生しやすくなります。
本連載の目的
本連載では、こうした環境変化を前提に、
●いかにしてキャッシュを残すか
●どのタイミングで意思決定を行うべきか
●税制を踏まえた戦略的な選択肢
について、実務に基づいた視点で解説していきます。
単なる節税のテクニックではなく、経営判断としてのキャッシュ戦略を提示することが目的です。
まとめ
2026年度は、
●防衛付加税による税負担の増加
●社会保険適用拡大による固定費の上昇
という二つの要因により、企業のキャッシュフローに対する圧力が強まる年になります。
この環境下においては、「利益を出す」ことに加えて、「キャッシュを残す」視点が不可欠です。そして、そのためには事前のシミュレーションと適切な意思決定が求められます。次回は、「金融所得課税の強化」というテーマを取り上げます。法人だけでなく、オーナー個人の資産にも影響が及ぶ可能性が高く、今後の資産戦略を考えるうえで避けて通れない論点です。
辻 哲弥
公認会計士・税理士
税理士法人グランサーズ 代表社員
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