金価格急落は一時的な逆風?…中国の強い現物需要が長期の“追い風”に。金のパフォーマンスのカギを握るFRBの政策転換【4月の金市場】
(※画像はイメージです/PIXTA)
2026年4月の金市場は、3月の原油高ショックとFRBの政策観測の急反転によって短期的な急落に見舞われました。しかし、これはあくまで“一時的な逆風”にすぎません。中国の強い現物需要や各国中央銀行の金購入、さらに財政悪化と債務膨張といった構造要因が、金にとってはむしろ長期的な追い風となっています。本記事では、金市場の現状と今後の金価格を左右する要因を整理します。なお、本稿はステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの4名のストラテジストによる共同執筆です。
FRBの政策転換が金のパフォーマンスにとって重要である理由
金価格の調整は「短期要因」によるもの
実質利回りは2月後半に低下基調となったあと、原油価格に起因するインフレショックを受けて急上昇しました※12。
3月初めに中東紛争が勃発して以降、米国の10年物インフレ連動国債(TIPS)の利回りはおおむね30~35bp上昇し、2025年7月以来初めて2.0%の水準を試す展開となりました※13。3月の金価格の調整は、主にFRBの予測の見直しと実質利回りの上昇によるもので、これらの要因がドル高を支えました。
金価格の調整は、ディベースメント(通貨価値の切り下げ)の懸念や代替不換通貨への資金配分によって世界的な金需要が崩壊したことを示すものではなかったと考えられます※14。
したがって投資家は、構造的なダイナミクス(金にとって引き続きおおむねプラス材料と当社はみている)に対する循環的な圧力(実質利回りの上昇に伴い、金保有の機会コストが一時的に増加すること)に注意を払うべきです。
戦術的に見ると、実質金利が安定または反転した場合には、こうしたダイナミクスは金にとって歴史的な追い風となる環境を作り出してきました。
財政悪化と債務膨張が金需要を押し上げ
戦費の支出、支払利息の増加、歳入の減少などの財政赤字の拡大を受け、債務の増加と長期的なディベースメント・リスクの状況がさらに悪化していますが、こうした要因は歴史的に金需要を押し上げてきました。
世界の債務総額は過去最高の約348兆ドル、すなわち世界のGDPの3~4倍にまで膨れ上がり、民間部門よりも政府部門の債務の方が急激に増加しています。これは、構造的な財政圧力の高まりを予期している可能性があります※15。
次期議長人事も金相場の重要材料に
前述のとおり、変動の激しい環境下では、予想は急速に変わる可能性があります。パウエルFRB議長は2018年第4四半期に、中立金利はもっと高い水準にあるべきだと示唆しましたが、2019年7月に利下げに転じました。金価格は以降6ヵ月間で約11%上昇しました※16。
同様に、バーナンキ議長は2006~2007年にかけて、サブプライム住宅ローンによるリスクは抑制されていることを示唆し、利上げを正当化しました。にもかかわらず、株価が暴落すると積極的な利下げが続き、その後の6ヵ月間で金価格は38%上昇しました※17。現在、3月の原油ショックに端を発したFRBのタカ派的な政策転換を受け、先物市場は今年中の利上げの可能性を織り込んでいます※18。
一方、地政学的緊張が緩和された場合は、市場予想が年内の利下げへと急反転し、金にとってきわめて好ましい環境が生まれる可能性があります。さらに、一部で緩和よりと見られているウォーシュ氏が次期FRB議長に就任した場合にも、政策転換を通じて金に追い風が吹く可能性があります。
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連載【ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント】金市場を徹底分析
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〈注記〉
※1 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※2 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※3 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※4 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※5 Source: CBO, as of 02/28/2026
※6 Source: China Customs, World Gold Council, State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※7 Source: SGE, LBMA, State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※8 Source: China Customs, State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※9 Source: People’s Bank of China, State Street Investment Management, as of 02/28/2026
※10 Source: World Gold Council, State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※11 Source: World Gold Council, Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/30/2026
※12 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※13 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※14 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※15 Source: Institute for International Finance, IMF, World Bank, State Street Investment Management, as of 12/31/2025
※16 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※17 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※18 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※19 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/30/2026
※20 Source: World Gold Council, State Street Investment Management, as of 03/10/2026
※21 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※22 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 01/31/2026
※23 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/24/2026
※24 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/25/2026
〈出所〉
★1 出所:上海黄金取引所、LBMA、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント(2003年~2026年第1四半期)。記載されているパフォーマンスデータは過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
★2 出所:ブルームバーグ・フィナンシャルL.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント。データは2026年3月30日時点。記載されているパフォーマンスデータは過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
★3 出所:ワールド ゴールド カウンシル、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント。データは2026年3月30日時点。
〈用語集〉
中央銀行:一つの国または国家連合で用いられる通貨と信用の創造と分配を独立性を持って管理する金融機関。
COMEX:コモディティ(主に金、銀、銅、アルミニウム)の先物を取引する市場。
金のスポット価格:スポット市場における金の価格。国際的通貨コード「XAU」で表記される、1トロイオンス当たりの金価格。米ドル建て。
実質金利:インフレ調整後の金利。物価上昇の影響を取り除くことで、真の借入れコストおよび投資による実際の利回りを反映します。
ICEブレント:インターコンチネンタル取引所(ICE)で取引されるブレント原油先物で、国際的に取引される原油の主要なベンチマーク価格の一つです。
レフトテール・ヘッジ:株式急落、政策ショック、通貨の不安定化など、極端に悪い市場結果(下振れ)からポートフォリオを守るためのポジション。金は、市場全体におよぶストレス局面における過去のパフォーマンスから、レフトテール・ヘッジとして位置づけられることが多いです。
30日移動平均ボラティリティ:資産の過去30日間のリターンの年率換算標準偏差を測定、変動するリスクを示すため毎日更新されます。価格変動の激しさを定量し、値が高いほどリスクが大きいことを示します。
ディベースメント(通貨価値の切り下げ):通常、インフレ、過剰な通貨発行、あるいは時間の経過とともに通貨の価値を弱める政策によって引き起こされる、通貨の実質価値または購買力の低下を指します。
タカ派的な政策転換:中央銀行や政策当局のメッセージが金融引き締め方向へとシフトすることで、通常、政策金利の引き上げ、利下げ幅の縮小、あるいはインフレ抑制の強化を示唆します。
代替不換通貨:主要な準備通貨(特に米ドル)の代替として使用される、非伝統的な不換通貨を指します。
中国人民銀行(PBOC):中国の中央銀行であり、金準備を継続的に積み増している主要な構造的買い手。
CNY:国内外国為替市場における中国人民元(人民元とも呼ばれる)の略称。
リラ:トルコの通貨で、正式名称はトルコリラです。マクロ経済の文脈では、急激な通貨安やインフレ圧力に直面してきた通貨の例として、しばしば引き合いに出されます。