(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親が子どもを支える関係では、「信頼」を前提にお金の管理を任せる場面も少なくありません。しかし、その距離の近さゆえに、異変に気づきにくくなることもあります。気づいたときには、家計だけでなく、親子の信頼そのものが揺らいでいた――そんなケースも起こり得ます。

通帳に並んだ「見覚えのない引き出し」…信頼が揺らいだ瞬間

「仕送りとは別に、数万円単位の引き出しがいくつもあって…。最初は、自分が忘れているのかと思いました」

 

しかし、日付や金額を見ても、どうしても思い当たる節がありませんでした。そこで久美子さんは、あることを思い出します。

 

「通帳と印鑑、キャッシュカードの場所を、以前息子に教えていたんです。何かあったときのためにと思って…」

 

嫌な予感がしながらも、久美子さんは亮太さんに電話をかけました。

 

「正直に言ってほしい、と伝えました」

 

しばらく沈黙が続いたあと、亮太さんはこう答えたといいます。

 

「ごめん。少しだけ借りたつもりだった」

 

聞けば、生活費が足りないときに、久美子さんの口座から現金を引き出していたというのです。返すつもりだった、と説明されたものの、総額はすでに数十万円にのぼっていました。

 

「頭が真っ白になりました。“信じていたのに”という気持ちが強くて…」

 

久美子さんは、それまで一度も、息子のお金の使い方を疑ったことはありませんでした。

 

「仕送りもしているのに、さらに勝手に引き出していたなんて。どうしてそんなことを、と思いました」

 

金融庁も、高齢者の資産管理については、家族間であっても適切な管理と確認が必要であると注意喚起しています。信頼関係に依存しすぎると、不正やトラブルに気づきにくくなるリスクがあります。

 

その後、久美子さんは通帳とカードの管理方法を見直し、仕送りも一度止める決断をしました。

 

「息子を助けたい気持ちは変わりません。でも、このままでは自分の生活も守れないと思いました」

 

親子であっても、お金の問題は感情だけでは解決できません。善意と信頼のあいだにある“確認しない関係”が、思わぬ形で崩れてしまうこともあります。

 

「息子を信じていたからこそ、何も疑わなかった。でも、それが一番危なかったのかもしれません」

 

久美子さんはそう振り返ります。口座の数字が示していたのは、単なる残高の減少ではなく、親子の関係に生じた見えないひずみそのものだったのです。

 

 

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