(※写真はイメージです/PIXTA)

老後に備えて節約を重ね、できるだけ多くの資産を残す――そうした価値観は決して珍しいものではありません。将来への不安が強いほど、支出を抑え、慎重に暮らそうとするのは自然なことです。しかし、その積み重ねが「使わないまま時間が過ぎていく」ことにつながる場合もあります。お金を残すことと、人生を楽しむこと。そのバランスは、高齢期になって初めて見えてくるものかもしれません。

「行けるうちに行けばよかった」…残された時間と向き合って

きっかけは、友人の一言でした。

 

「“去年、ヨーロッパに行ってきたんだ”と聞いて、いいなと思ったんです。それで、“じゃあ自分たちも”と考えたんですが…」

 

実際に計画を立てようとしたとき、思いがけない壁に直面しました。

 

「長時間の移動がきついんです。体力的に、自信が持てなくて」

 

道子さんも膝の痛みを抱えており、長距離の移動や観光に不安がありました。

 

「若い頃なら何でもなかったことが、できなくなっていると実感しました」

 

そのとき、健三さんは初めて、「使わなかった時間」の重さに気づいたといいます。

 

「お金はあるのに、やりたいことができない。こんなことになるとは思っていませんでした。貯めることばかり考えて、“いつ使うか”を考えていなかったんです」

 

現在、夫婦は近場での外出や、日帰り旅行を少しずつ楽しむようになりました。しかし、大きな旅行は難しくなっています。

 

「もっと早く、少しずつでも使っていればよかった。そう思うことはあります」

 

道子さんも、静かにこう語ります。

 

「節約してきたことを後悔しているわけではないんです。ただ、“あのとき行っておけばよかった”“やっておけばよかった”と思うことが、いくつか残ってしまっただけで」

 

老後の安心を支えるのは、お金だけではありません。時間や体力、そして「そのときにしかできない経験」もまた、取り戻せない資源です。

 

節約は将来のための大切な手段ですが、それが目的になってしまうと、別の後悔を生むこともあります。山口さん夫婦が振り返る「静かな後悔」は、多くの人にとって他人事ではないのかもしれません。

 

 

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