「のんびり暮らしているはずだった」…娘が見た“生活の実態”
由紀さんが驚いたのは、家の中の雰囲気でした。広縁には未開封の段ボールが積まれ、居間の隅には修理を待つ扇風機や壊れかけた除湿機が置かれていました。冷蔵庫の中は思った以上に質素で、作り置きのおかずは少なく、値引きシールの貼られた総菜がいくつも入っていたといいます。
「海辺でのんびり暮らしている、というイメージとは違っていました。節約しているというより、削って暮らしている感じでした」
さらに、母の洋子さんは「最近は病院もなるべくまとめて行くようにしている」と話しました。父の文雄さんも、「ちょっとした買い物は我慢することが増えた」とこぼしたそうです。
決定的だったのは、通帳を見せてもらったときでした。
「両親が“こんなはずじゃなかった”と言いながら通帳を出してきて、そこで初めて、残高がかなり減っていることを知りました」
理由は浪費ではありませんでした。地方での生活費が想定以上だったことに加え、エアコンの交換、雨漏り補修、車の故障、通院費、そして海辺の家特有のこまごました修繕費が、少しずつ積み重なっていたのです。
国土交通省『住宅市場動向調査』でも、高齢者の住み替えでは、住宅費だけでなく、買い物や通院などの利便性、生活環境の変化が影響することが示されています。住み替えは住居費だけで決まるものではなく、生活全体の条件を踏まえて考える必要があります。
由紀さんは、その場で両親に言いました。
「せっかく移住したことを否定する必要はないけど、このまま我慢だけで暮らすのは違うんじゃない?」
話し合いの結果、夫婦は生活の見直しを始めました。車は2台から1台に減らし、買い物は宅配も併用する。通院先も、無理なく通える範囲で整理することにしたそうです。必要なら、将来的に駅や病院に近い場所への再住み替えも視野に入れるといいます。
高齢期の住まいは、身体状況や生活機能、地域とのつながりを踏まえて考える必要があります。老後の安心は、家そのものの価格だけで決まるわけではありません。
海辺のスローライフは、決して夢物語ではなかったのでしょう。けれど、その夢を支えるには、住居費だけでは見えない日々のコストと、歳を重ねたあとの暮らし方まで見通す視点が必要でした。“好きな場所で暮らすこと”と“安心して暮らし続けること”は、必ずしも交わりません。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
