楽しみにしていた夫婦水入らずのドライブ旅行
美智子さん(仮名・65歳)は、夫の雄一さん(仮名・65歳)と二人暮らしをしています。美智子さんは結婚後、専業主婦として家事や子育てを担ってきました。雄一さんはメーカーに勤め、管理職を経て退職しました。
現役時代の雄一さんは出張が多く、休日も仕事関係の付き合いで家を空けることが少なくありませんでした。夫婦で泊まりがけの旅行へ出かけたのは、子どもが幼かった頃が最後です。
「仕事を辞めたら、今まで行けなかったところへ二人で行こう」
雄一さんは以前からそう話していました。退職後、最初に計画したのが、車で温泉地や景勝地を巡る3泊4日の旅行でした。
美智子さんも楽しみにしていました。宿や立ち寄り先を調べ、季節に合わせた服を用意しました。一方、雄一さんは「運転は任せろ」と言うだけで、具体的な計画にはほとんど関わりませんでした。
旅行当日の朝、雄一さんは予定より早く車を出したがりました。
「まだ荷物を積み終わってないから、少し待って」
「昨日のうちにやっておけばよかっただろう」
出発前から責めるような口調を向けられ、美智子さんは気持ちが沈みました。それでも「久しぶりの旅行だから」と言い返さず、車に乗りました。
高速道路では、雄一さんが前を走る車にいら立ち、何度も車間距離を詰めました。
「遅いな。何を考えて走ってるんだ」
「少し離れたほうがいいんじゃない?」
美智子さんが言うと、雄一さんは声を強めました。
「運転しているのは俺だ。横から口を出すな」
休憩したいと伝えても、「次のサービスエリアまで我慢できるだろう」と取り合ってくれません。予定していた観光地でも、雄一さんは駐車場が混んでいると不機嫌になり、ゆっくり見たいという美智子さんを急かしました。
宿に着くと、美智子さんが荷物を整理し、夕食の時間や翌日の予定を確認します。雄一さんは座ってテレビを見ながら言いました。
「明日は何時に出るんだ?」
「あなたも予定表を見てよ」
「こういうことは、お前のほうが得意だろう」
家にいるときと同じでした。旅行の準備や細かな調整は妻が行い、夫は決められた予定に乗るだけ。それなのに、思いどおりにならなければ不満をぶつけます。
内閣府『令和7年版男女共同参画白書』では、家事関連時間は妻のほうが長く、仕事関連時間は夫のほうが長い傾向が示されています。長年続いた家庭内の役割分担は、夫の退職によって自動的に変わるわけではありません。
旅行2日目の夜、美智子さんはついに言いました。
「私、もう明日帰りたい」
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