資産はあるのに回らない…“現金が足りない”
退院後、健太さんは自宅で家計を見直しました。預貯金や投資を含めれば、金融資産は1,800万円ほどありました。
「数字だけ見れば、余裕があるはずでした」
しかし、実際に使える現金は限られていました。給与が振り込まれる口座の残高は100万円弱。そこから毎月、家賃や生活費に加え、母の施設費として約25万円が引き落とされていきます。
一方で、資産の多くは投資信託や積立型の運用商品として保有していました。
「将来のために増やしていくつもりだったんです。でも、“今使えるお金”とは別物でした」
体調が万全でない中、資産の売却や手続きは思うように進みません。金融機関とのやり取りやログイン作業すら負担に感じる状態でした。
さらに、傷病手当金の申請や各種手続きも必要でしたが、書類の準備や申請には時間がかかります。すぐに現金が入るわけではありません。
「お金はあるのに、使えない。こんな状況になるとは思っていませんでした」
追い詰められた健太さんが向かったのは、母のいる老人ホームでした。面会室で顔を合わせた節子さんは、息子の様子にすぐ気づきました。
「どうしたの。顔色が悪いわよ」
その一言に、健太さんは言葉を選びながらも、ようやく口を開きました。
「情けない話なんだけど……少し、助けてほしい」
これまで“支える側”であり続けてきた自分が、母に頼る。その事実を受け入れるのは簡単ではありませんでした。しかし節子さんは、静かにうなずいたといいます。
「いいのよ。そういうときのために、お父さんもお金を残してくれたんだから」
その言葉に、健太さんは肩の力が抜けたといいます。
「自分はずっと、“支え続ける側でいなきゃいけない”と思っていました。でも違ったんだなと」
その後、健太さんは資産の一部を現金化し、当面の生活資金を確保。母の施設についても、無理のない範囲で見直しを検討し始めました。
高収入であることも、資産があることも、安心を保証するものではありません。いざというときに使える形で備えておくこと、そして一人で抱え込まないこと。その重要性を、健太さんは身をもって知ることになりました。
「“助けてほしい”と言えたことが、結果的に一番の転機だったと思います」
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