市場では「アジア売り」の動きが出る可能性も
日本はエネルギーの大半を中東に依存しており、こうした事態には直接的な影響を受けることになります。ガソリンや電気料金の上昇は家計の負担を押し上げ、消費マインドを冷やします。企業にとっても、輸送費や原材料コストの上昇が収益を圧迫し、価格転嫁が進めばさらなる物価上昇を招く構図となります。
加えて、ナフサの供給不安も見逃せません。ナフサは石油化学製品の基礎原料であり、プラスチック製品や日用品、包装材など幅広い分野に影響を及ぼします。供給制約が強まれば、生活必需品の供給不足と価格上昇が同時に進行する可能性があり、家計への影響はエネルギー価格の上昇にとどまりません。
また、ホルムズ海峡を通過する原油の約8割がアジア向けとされており、とりわけ日本を含むアジア諸国への影響は相対的に大きいと考えられます。加えて、国によって備蓄水準に差がある中で、市場ではアジア向け需要の不安定化を意識した「アジア売り」とも言える動きが見られる可能性があり、地域的な価格変動や資金フローの偏りが生じる懸念があります。
有事に「円安進行」か、株のみならず債券まで売られる可能性
こうした供給ショックは金融市場にも強い影響を与えますが、その反応は通常の「リスクオフ」とは異なる様相を呈する可能性があります。一般的なリスクオフ局面では円買い・債券買い・株売りが見られますが、ホルムズ海峡封鎖のようなケースでは事情が異なります。
まず為替市場では、日本のエネルギー輸入依存度の高さが意識され、貿易収支の急速な悪化懸念から円売り圧力が強まります。エネルギー価格の急騰は日本経済にとって明確なマイナスであり、安全資産としての円が買われるという従来の構図が崩れやすくなります。結果として、有事でありながら円安が進行する恐れもあります。
株式市場では、エネルギーコストの急騰と景気後退懸念が同時に意識されるため、幅広い銘柄で売り圧力が強まる可能性があります。資源関連株の一部には追い風となるものの、日本全体としてはコスト増の影響が大きく、企業収益の下押し圧力が優勢となりやすいと考えられます。
さらに注目すべきは債券市場です。本来であればリスクオフ局面では国債が買われ金利が低下しやすいものの、今回はエネルギー起因の強いインフレ圧力が同時に発生します。このため、物価上昇を織り込む形で金利が上昇し、債券が売られるリスクがあります。加えて、日本の財政状況への懸念や円安進行が重なれば、海外投資家の資金流出を通じて金利上昇圧力が一段と強まることも想定されます。
すなわち、為替は円安、株は下落、債券も下落(金利上昇)という「トリプル安」の様相を呈する可能性がある点が、今回のリスクの特徴と言えます。これは通常のリスク回避局面とは異なり、日本経済の構造的な脆弱性が市場に意識される局面とも言えます。
市場による財政信認低下で、さらなる円安や金利上昇に
このような状況下では、スタグフレーション懸念が一段と強まります。すなわち、景気が減速する一方で物価が上昇する状態です。企業はコスト増に直面し、賃上げ余力が削がれるため、家計は物価上昇に苦しみ、実質所得の減少が続くことになります。
金融政策の舵取りも極めて難しくなります。日本銀行は物価上昇を抑えるために引き締めを強めれば景気を冷やすリスクがあり、逆に景気配慮を優先すればインフレ圧力が長引く可能性があります。市場はそのバランスを見極めながら、為替や金利を通じて神経質な動きを続けることになるでしょう。
財政政策についても同様です。エネルギー補助や物価高対策によって短期的な負担軽減は可能ですが、財政赤字の拡大は避けられません。市場が財政への信認低下を意識すれば、さらなる円安や金利上昇を招き、状況を一層難しくする恐れがあります。
今後のシナリオとしては、中東情勢の沈静化による安定回帰、緊張の長期化による高コスト環境の定着、そしてホルムズ海峡封鎖による深刻な供給ショックの三つが考えられます。特に最後のケースでは、金融市場と実体経済が同時に悪化するリスクに備える必要があります。
中東情勢は地理的には遠いものの、その影響はエネルギー、物価、金融市場を通じて日本経済に直接及びます。今回の局面は、日本のエネルギー依存構造と政策対応の難しさを浮き彫りにしており、今後はこうした複合的リスクを前提とした慎重な投資行動が求められます。
藤田 行生
SBI FXトレード株式会社
代表取締役社長
※ 本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。
