2008年~2011年は、4年連続で「GW円高パニック」発生
「GWは円高になりやすい」という経験則は、為替市場において長年語り継がれてきたアノマリーのひとつです。その最大の理由は、日本の市場参加者が減少する薄商いの間隙をついて、ドル買い・円売りに傾いた投機ポジションの巻き戻しが起こりやすいことにあります。
特に2008年から2011年にかけては4年連続で「GW円高パニック」が発生したことから、この時期のアノマリーは市場参加者の記憶に深く刻み込まれています。2010年のGWには5月5〜7日にかけて最大5円もの急落が起きました。きっかけはギリシャ債務危機の表面化です。2008年は最大3円、2009年も最大5円、2011年も最大3円と、毎年のように急落が繰り返されました。
こうした「GW円高パニック」に共通するのは、日本の長期休暇による市場参加者の減少で値動きが荒れやすくなること、そしてその局面でドル買い・円売りの偏ったポジションが一気に巻き戻されるという構図です。「静かな市場」が、逆に大きなボラティリティを生みやすいという逆説です。
2026年のGW介入劇…「序盤」から始まった連続攻防
2026年のGWも、このアノマリーが現実となりました。4月30日、円相場が一時160円台後半まで下落し、前回介入が行われた2024年7月以来、約1年9カ月ぶりの安値水準となったのを受け、政府・日銀は円買い・ドル売りの為替介入を実施。米ドル円相場は一転、155円台まで急落しました。介入規模は5兆〜6兆円規模と推計されています。
介入前には当局者の強い牽制発言も頻発しました。片山財務相が「いよいよかねてから申し上げてきた断固たる措置を取るタイミングが近づいている」と発言し、三村財務官も「最後の退避勧告だ」と介入の可能性を強く示唆しました。
GW中も攻防は続き、円相場は5月1日と4日にも1円以上円高が進む場面があるなど、不安定な動きが続きました。さらに6日午後1時すぎには157円80銭前後から短時間で2円余り円高が進み、約2カ月ぶりに一時155円台前半を付けました。流動性が薄い連休期間中に、介入への警戒ラインを160円から157円台に抑えたいのでは、と分析する市場関係者の声もあります。
そしてGW明けとなった5月7日、三村財務官は「連休が終わればまた週末も来る」と述べ、円安をけん制。さらに「照準は全方位に向けている」とも語り、為替介入の回数についてはIMFの基準を「回数を制約するものとは思っていない」と明言しました。市場はこの発言を受けて円買いで反応しましたが、神経質な相場となっています。
GW明け7日午前の東京外国為替市場では、朝方には156円50銭台までドル買いが進んだものの、その後は一時156円02銭近辺まで下落する場面も。ただ、156円00銭台では押し目買いも入り、その後はドル買い優勢の地合いとなりました。
構造的な円安圧力はなぜ続くのか?
FRBは4月28、29両日の会合で据え置きを決め、パウエル議長がトランプ大統領の利下げ要求に対しても慎重姿勢を崩さなかったことから、米国の追加利下げ観測は一段と後退しました。年内利下げ観測も後退しており、日米金利差の縮小がなかなか見込めない状況が続いています。
加えて、2026年2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃を受け、安全資産としての米ドル需要に加え、積み上がっていた米ドル売りポジションの巻き戻しや、米国のエネルギー面での優位性を背景に、相場は米ドル全面高へ転じています。攻撃開始前に156円前後で推移していた米ドル円は一時160円台まで上昇しました。
もう一つ、常に意識しておくべきなのが「トランプ発言リスク」です。円安への不満が示されれば一時的に円高が進み、反対に日米通商交渉で「円安容認」とも受け取れるニュアンスが出れば再び円安圧力が高まる——という双方向の変動リスクが常にくすぶっています。SNSや記者会見での一言が相場を数円動かす「トランプ・リスク」は、GW明けの最大の変数のひとつです。
次の警戒ゾーンは、11年ぶりに出現する「9月5連休」
こうした環境の中で、個人投資家が次に意識しておくべき「警戒ゾーン」があります。それが9月のシルバーウィークです。2026年9月は、敬老の日(21日・月)と秋分の日(23日・水)という2つの祝日に挟まれた22日(火)が国民の休日となり、19日(土)から23日(水)までの5連休となります。2015年以来、11年ぶりの大型連休です。
GWと同様、シルバーウィーク中も日本の市場参加者が大幅に減り、薄商いの中で相場が荒れやすい環境が生まれます。今回のGWが繰り返し示したように、流動性の低い市場では、投機筋によるポジション巻き戻しや予期せぬ海外発のニュースが重なった場合に、数円規模の急変動が短時間で起きるリスクがあります。また9月は本邦企業による中間決算に向けたレパトリエーション(本国送金)の動きが活発になる時期でもあり、円高方向への圧力が加わりやすいという季節的な特性もあります。
資産防衛の基本姿勢
資産防衛の観点からは、いくつかの点を意識しておくことが重要です。
まず、ドル資産や外貨預金を保有している方は、連休前に為替ポジションを確認し、急激な円高が進んでも耐えられる水準かどうかを点検しておくことが賢明です。また、ドル資産の一部についてFX取引でドルを売りヘッジをかけておくことを検討してもいいかもしれません。
そのFX取引においては、薄商いの時間帯にスプレッドが拡大しやすく、損切り注文が予期せぬ水準で執行されるリスクがあります。レバレッジを高めたポジションを連休またぎで保持することには慎重な判断が求められます。そして外貨建て投資信託については、為替ヘッジの有無を改めて確認しておくことが、連休中の急変動に対する備えになります。
今回のGWが示したように、大型連休中の為替市場では、流動性低下を背景に相場が急変しやすくなります。次に警戒されるのは、11年ぶりの5連休となる9月のシルバーウィークです。円安圧力が続く一方で、当局の介入警戒や海外発ニュースによる急変動リスクも残っており、事前に為替ポジションや資産配分を点検しておくことが重要になりそうです。
さらに秋以降は、米中間選挙を意識した政治要因も市場の変動率を高める可能性があります。支持率を意識したトランプ政権の通商・為替政策に市場が敏感に反応する局面も想定され、発言ひとつでドル円が大きく振れる展開には引き続き注意が必要です。
次の警戒ゾーンを視野に入れながら、事前の備えを整えておくことが今の市場環境を乗り切るための基本姿勢といえるでしょう。
藤田 行生
SBI FXトレード株式会社
代表取締役社長
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