国内政治動向…市場では早期解散の思惑も取り沙汰
高市早苗首相の新政権が発足して1ヵ月が経ちましたが、自民党と日本維新の会による連立政権は、発足直後の高い支持率を維持しています。NHKの11月21日の世論調査によれば支持率は55%を超え、歴代自民党政権の平均(45%前後)を大きく上回っています。一方で、公明党の連立離脱により衆院での多数確保が難しく、法案審議では国民民主党など野党の協力が不可欠となっています。政権運営の不安定さが残る点は大きな懸念材料です。
高市政権は、安倍政権の流れを汲む「官邸主導型」を志向し、成長戦略と積極財政を軸に据えています。政権内の主要ポストを同志で固めることで政策遂行力の強化を図っていますが、少数与党体制が足かせになっています。自民・維新連立で一定の支持基盤は確保したものの、公明党離脱後は衆院での過半数確保が難しく、国民民主党など野党の協力が法案成立の鍵を握ります。
衆院議員定数削減をめぐっては、自民・維新が「1割削減」で大筋合意に達したものの、野党側の修正要求もあって成立は遅れています。このプロセスは政権の調整力不足を浮き彫りにし、早期解散の思惑も市場では取り沙汰されつつあります。政権基盤を固められるかどうかが、今後の経済政策の実効性を左右するでしょう。
国際政治動向…中国による圧力強化、外交摩擦は拡大傾向に
国際情勢では、日中関係の緊張が最も大きな懸念材料となっています。高市首相が台湾有事を巡り踏み込んだ発言を行ったことをきっかけに、中国側は日本への圧力を強めています。日本産水産物全体に対する禁輸措置の再開を示唆する動きや、SNS上での在日中国大使館による挑発的な投稿など、外交摩擦は拡大傾向にあります。
これに対し日本政府は、在外公館への注意喚起や邦人の犯罪被害件数の公表を通じて中国側の主張に反論しています。米国は「尖閣諸島を含む日本防衛の責務は揺るがない」と明確に支持を示していますが、同時に米中間では10月末の首脳会談で追加関税の一部見直しなど、一定の協調も見られ、緊張と緩和が交錯する状況が続いています。
南アフリカで開催されたG20では日中首脳会談が実現せず、関係改善の糸口は見えていません。日本政府内では、外交ルートの強化による鎮静化と、制裁強化を含む強硬策の両面を検討しており、今後の対応次第で経済への影響も大きく変わる局面です。
経済動向…高市政権の政策、インフレ圧力と金利上昇招く
11月21日、政府は21兆円規模の総合経済対策を決定しました。物価高に直面する国民生活を下支えする狙いですが、十分な効果を発揮できるかは今後の執行状況に左右されます。高市政権の政策は結果的にインフレ圧力と金利上昇を招いており、円安進行とあわせて企業・家計双方に複雑な影響を与えています。
金融政策では、政府の意向が日銀に影響しているとの見方が市場にあります。大和総研の予測では、日銀が12月に短期金利を0.75%へ引き上げ、その後半年ごとに0.25%ずつ追加利上げする可能性が示されています。経済成長率見通しも2025年度1.2%、2026年度1.5%と上方修正されました。
海外経済も不透明感が強まっています。米国では関税コストの転嫁によってインフレ率がやや高止まりする一方、FRBは雇用市場の悪化を受けて利下げを続ける見通しです。政策金利は2026年末に3.25~3.50%まで低下するとの見通しもあります。欧州ではユーロ高が続き、輸出を圧迫。新興国でも地政学的緊張が続き、トルコでは金融政策の不安定さが顕著です。
為替動向…ドル円は157円台後半まで上昇、円安基調続く
11月の為替市場では「高市トレード」と呼ばれる動きが注目されています。高市政権の積極財政やインフレ容認姿勢が市場で意識され、ドル高・円安が進みやすい状況となっています。実際、ドル円は11月に入ってから157円台後半まで上昇するなど、円安基調が続きました。
一方、急速な円安に対して政府・日銀は「過度な変動に警戒する」との姿勢を示しており、実際の介入の可能性も意識され始めています。財政拡大による日本国債への信認低下や、国内債券市場の不安定さが要因となり、為替市場でも円相場の動きが不安定となるリスクを高めています。
2026年の為替市場の展望…考えるべき「3つの要因」から考察
2026年の為替市場を考える上では、「日銀の利上げペース」「FRBの利下げ見通し」そして「日中関係の行方」が三大要因になります。
日中緊張が長期化すれば、安全資産としての円買いが進む一方、日本経済には輸出・インバウンドの双方でマイナス影響が及びます。特に訪日中国人客の消費は2024年時点で全体の2割超を占めており、これが減少するとGDPを0.5%押し下げる可能性も指摘されています。
金利面では、日銀が2026年1月までに短期金利を0.75%まで引き上げるとの見方が広がっています。一方、FRBは利下げペースを緩める見通しで、結果として日米金利差は徐々に縮小するものの、急激な変化は想定されていません。このため、ドル円は一方向に大きく動くよりも、155~160円を中心としたレンジで活発な展開が続く可能性があります。
ただし、地政学リスクの高まりや経済対策の効果次第では、変動幅が±5円を超える局面も考えられます。民間予測では、2026年の平均で154~164円程度と緩やかな円安傾向が続くとの見方が中心です。個人的には、2026年は150円を割れ、140円台を中心とした相場展開になる公算が強く、一時的に市場のオーバーシュートリスク(瞬間的に130円台)を警戒したいと考えています。
高市政権の「安定的な政策運営の確立」がカギに
2025年11月末時点では、政治面の不安定さと国際的な緊張、そして国内外の金利動向が複雑に組み合わさり、為替市場のボラティリティは高い状況が続いています。円安の恩恵を受ける企業は引き続き多いものの、急速な変動への備えとして為替ヘッジの重要性は一段と増しています。
高市政権が安定した政策運営を確立できるかどうかが、2026年以降の日本経済と為替市場の安定に向けた大きな鍵となるでしょう。
藤田 行生
SBI FXトレード株式会社
代表取締役社長
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