配当ゼロでも株主が儲かる「内部留保」のロジック
では企業が配当を払うから株式投資はプラスサム・ゲームなのでしょうか。
MMの配当命題では、理論的には配当を払おうが内部留保しようが株主価値は変わりません。だとすれば、配当を払わなくても株式投資はプラスサムになるはずです。
さきほどの例でY社は1年で配当の原資になる100円のCFを稼ぎ出すとします。それを配当で払い出したのがさきほどの例でしたが、今度は配当を出さず全額内部留保するとしましょう。すると1年目の終わりにはY社の企業価値は1,100円になっているはずです。同様に2年目には1,200円に、3年目には1,300円になっています(※)。
(※)CFを稼ぎ出す営業資産は1,000円のままで変わらずとしています。各期のCFは営業資産に再投資せずに現金として保有する仮定です。したがってこの例では複利で増えていきません。
Y社の株は各自が1年保有してCさん→Dさん→Eさんへと転売されていきます。CさんはDさんに1,100円で売り100円の利益を手にします。Dさんは1,100円で買った株をEさんに1,200円で売るので、やはり100円の利益を手にします。
CさんとDさんは100円の売却益を手にしましたが、最後のEさんはどうでしょうか? 1,200円で買ったY社の株を1年保有するとその企業価値は1,300円となるので100円の含み益を手にします。
ここでは市場に3人しか投資家がいない設定ですから、EさんがY社の唯一の株主です。
企業価値1,300円はEさんが自由にできる「富」と言えるでしょう。Y社を解散して資産を売却し1,300円の現金に換金することもできます。現実的な設定にすれば、他にも投資家は無数にいるので、EさんはFさんに1,300円で売ることも可能です。Eさんは1,200円でY社の株を買い、その1年後にはやはり100円の利益を得るのです。
結局のところ、配当を出そうが内部留保しようが、企業がCFを稼ぎ出すことができるかどうかがすべてです。
企業が稼いだCFが投資家のリターンの源泉になっています。このリターンは、「誰かの損」によるリターンではありません。これが株式投資はプラスサム・ゲームであることの理由です。
広木 隆
マネックス証券株式会社
チーフ・ストラテジスト
