「カルテの様式に、診療を合わせてほしい」デジタル担当大臣の発言に納得も…規格化が進む医療現場で、医師が大切にしたいこと【臨床医が解説】

「カルテの様式に、診療を合わせてほしい」デジタル担当大臣の発言に納得も…規格化が進む医療現場で、医師が大切にしたいこと【臨床医が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

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「カルテの様式に診療を合わせる」流れは理解できるが…

先日、埼玉県医学会総会で、松本尚デジタル担当大臣の講演を聞く機会がありました。

 

講演の中で話題になっていたのは「クラウド型電子カルテ」のことでした。

 

国は、統一規格に基づくクラウド型電子カルテを進めており、この秋にはその内容が発表される見込みとのことでした。

 

これまで電子カルテは、それぞれの医療機関が自分たちの診療に合わせて、個別に工夫しながら使ってきました。しかし、その分、導入にも維持にも手間と費用がかかってきました。これからは規格を統一することで、コストやメンテナンスの負担を減らしていこうという考え方です。

 

講演の中で、特に印象に残った言葉がありました。

 

「診療に合わせてカルテをカスタマイズするのではなく、カルテの様式に診療を合わせてほしい」という言葉です。

 

その流れ自体は、理解できます。

 

医療の現場では、人手不足もありますし、業務も複雑になっています。ある程度の標準化や効率化は、これから避けて通れないでしょう。遠隔診療やAIによる診療支援も、今後ますます広がっていくのだと思います。

 

ただ、私には少し気になることもありました。

 

これから医療がますます規格化され、標準的な診療が強く求められるようになったとき、そこから少し外れる患者さんはどうなるのだろうか、ということです。

 

実際の診療では、教科書どおりの患者さんばかりではありません。

 

症状の出方が典型的ではない方もいます。生活背景が複雑な方もいます。説明の受け取り方には個人差があり、同じ内容を話しても、理解のされ方が大きく違うこともあります。

標準化が進展する一方、枠に「うまく当てはまらない人」は?

標準化された医療には多くの利点があります。診療の質をそろえやすくなりますし、医療を安定して提供しやすくなります。それは大切なことです。

 

しかし一方で、標準化が進めば進むほど、その枠にうまく当てはまらない患者さんが、少しずつ見えにくくなる危険もあります。

 

典型的な症状なら診断しやすい。

標準的な経過なら説明もしやすい。

薬の反応も予想どおりなら対応しやすい。

 

けれども、現実の患者さんは、そう単純ではありません。

 

診断がつきにくい方。不安が強く、説明に時間が必要な方。医学的には同じ病気でも、その人の仕事、家庭、介護、経済状況によって、治療の受け止め方がまったく違う方。

 

そうした患者さんは、決して少なくありません。

 

医療が規格化されていくときに、本当に大切なのは、そうした人たちが置いていかれないことだと私は思います。

AI時代だからこそ「その人に必要な形」で支える医療を大切に

AIは、これから医療の中で大きな力になるでしょう。知識を整理し、標準的な判断を支え、見落としを減らし、診療を効率化する。そうした役割において、AIはとても有用だと思います。

 

しかし、患者さんを前にしたときに必要なのは、それだけではありません。

 

その人が何に困っているのか。何を不安に思っているのか。どこまで理解できていて、どこからわからなくなっているのか。いま本当に必要なのは、薬なのか、検査なのか、それとも説明なのか。

 

そうしたことは、標準化された仕組みだけでは十分に拾えません。

 

先日、京浜急行に乗ったとき、車内アナウンスで「ドアを閉めます」と流れました。多くの鉄道会社では「ドアが閉まります」と案内されることが多いように思います。ほんの少しの違いですが、私はこの言い方に惹かれました。

 

「ドアが閉まります」は、何が起きるかを説明する言い方です。一方で「ドアを閉めます」には、自分たちが責任をもって行うという姿勢が感じられます。

 

医師の仕事にも、少し似たところがあるように思います。

 

医師はしばしば紹介状への返書などで、「〜と思われます」という表現を用いることがあります。もちろん、医学には不確実な部分がありますから、断定を避ける慎重さは必要です。

 

ただ、その表現が重なりすぎると、誰がそう判断したのかが見えにくくなってしまいます。

 

患者さんにとって大事なのは、立派な言葉ではありません。自分のことをきちんと見てもらえているという実感です。そして、自分のための言葉で説明してもらえることです。

 

医療がデジタル化し、規格化されていく時代だからこそ、医師はなおさら、自分の言葉に責任を持たなければならないのだと思います。

 

標準化は必要です。

 

AIも、これから医療を支える大切な道具になるでしょう。

 

しかし、最後に患者さんを前にして、その人の事情を踏まえ、言葉を選び、説明し、判断するのは人間です。

 

患者さんが置いていかれない医療とは、単に便利な医療のことではありません。標準化された仕組みの中でも、その人の話をきちんと聞き、その人に合った言葉で説明し、その人に必要な形で支える医療のことだと思います。

 

AI時代になっても、それは変わりません。むしろ、AI時代だからこそ、そこがいっそう大切になるのではないでしょうか。

 

 

宮澤 哲夫

みやざわ耳鼻咽喉科 院長

医師・薬剤師

 

 

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