(※写真はイメージです/PIXTA)

同じ病気にかかっても、診断や治療の経過には大きな差が生まれることがあります。ある人は初診で適切な診断を受け、早期に回復する。一方で、同じ症状でも診断が遅れ、思わぬ医療トラブルに巻き込まれてしまう人もいます。その違いは、単なる「運」ではありません。診療の質を左右する「患者のふるまい」について、本記事で詳しくみていきましょう。医師が解説します。

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病状がすぐ回復する人、悪化する人…明暗を分ける「患者力」

同じ病気にかかっても、その先にたどる経過は人それぞれです。ある人は初診で正しい診断を受け、早期に治療が始まり、速やかに回復する。一方で、同じ症状で同じ病院を受診しても、診断が遅れたり、思わぬ医療トラブルに巻き込まれて病状が悪化し、後遺症を残してしまう例もあります。

 

このような違いを「運の差」や「たまたま」として片づけるのは簡単です。しかし、医師として経験を重ねるうちに、それだけでは説明できない“違い”が確かに存在することに気づきます。

 

その違いを生み出す要因のひとつが、「患者力」です。

 

患者力とは、医師の思考を妨げず、むしろ引き出すように働く“医療を受ける力”のことです。特別な医療知識を持つことではなく、医師の質問を理解し、自分の症状を整理して伝えようとする姿勢。そのような力を備えた人は、診療の場で医師の力を最大限引き出し、良い医療を引き寄せます。

 

医療は技術や知識だけで完結するものではありません。そこに人と人との信頼関係や相互の理解が加わって初めて、最良の結果が導かれます。医師の質問に的確に答え、医師の話に耳を傾け、医師の思考を妨げないこと、そして自分の身体の声に耳を傾け、それにきちんと向き合うこと。これらがそろい、医師と患者が二人三脚で病気に立ち向かうとき、医療は最大限の力を発揮します。

良い医療を引き寄せる人の共通点

診察をしていると、「この人を診察していると自分の知識や能力がどんどんと引き出されていく」と感じることがあります。たまたま来院した日に重篤な疾患が早期に発見された人。受診のタイミングが絶妙で、初期の段階で対応することができたために重症化を未然に防ぐことができた人。そうした人には共通点があります。

 

それは、医師との会話が整理されていることです。自分の身体に起こっている変化を真摯に受け入れ、症状を順序立てて話し、医師の質問に的確に答える。医師が話す間は黙って聴き、理解した部分はうなずいて意思表示をする。そのような患者に対して、医師はその力を最大限に発揮して、最も適切な検査や治療を迅速に行うことができるのです。

 

つまり、「良い医療を引き寄せる人」は、医師とともに診療の流れを作り、止めない人です。

 

一方、話が途中で飛んだり、質問と答えがかみ合わなかったり、感情が先走って医師の説明を遮ってしまう人には、医師は本来の力を十二分に発揮することができません。診察は流れが乱れると、その後の判断も不確実になりがちです。医療の結果に「差」が生じる背景には、こうした診療の質の「差」が存在しているのです。

診察は患者の言葉から始まる

医師の診察は、患者の言葉から出発します。どんなに高度な検査機器があっても、医師が最初に頼るのは「患者が何を語るか」です。「どんな痛みか」「いつからか」「どんなきっかけで起こるか」――その言葉の順序や具体性が、診断の方向を決めます。

 

たとえば「耳の痛み」と言っても、「触ると痛い」「鈍痛が続いている」「断続的な刺すような痛み」など、その表し方によって疑う病気が異なります。医師の思考は、その微妙な言葉の違いに導かれて展開されていきます。

 

したがって、話が前後したり、核心から逸れたりすると、医師の思考は中断を余儀なくされ、時間がかかり、集中力も分散し、判断の精度が落ちてしまいます。

 

反対に、患者が自分の身体の変化を順序立てて説明できれば、医師の頭の中では仮説が滑らかに組み立てられ、診療の流れが滞りません。その結果、判断が早まり、不要な検査を減らすことにもつながります。

 

近年、診察前に記入する問診票にも各医療機関で工夫が見られます。医師の聞きたいことが順序立てて記入できるものが増え、スマートフォンなどで入力すると、そのままカルテに反映できるシステムも普及してきました。

 

こうした工夫は、短時間で質の高い診療を実現するうえで大きな助けになります。しかし、どんなに優れたシステムでも、それをきちんと活用しなければ意味をなしません。医師が求めているのは、専門的な知識よりも、整理された情報とその的確な表現です。口頭であっても問診票を通じても、自分の症状を正確に、順序立てて伝えることが大切です。

「自分の身体からのサイン」を見逃しやすい人は…

「医療事故」と聞くと、多くの人は「医療側のミス」を思い浮かべることと思います。確かに医療事故の多くは、医療者の判断ミスや技術的な不備がきっかけで発生します。しかし、現場では患者側との情報伝達がうまくいかなかったことをきっかけに、誤った判断につながっていくケースも少なくありません。

 

たとえば、服薬歴を正確に伝えられなかったために処方薬が重複したり、併用してはいけない薬が処方されてしまう。また、過去に副作用が出た薬の情報を伝えなかったために、再び同じ薬が処方されてしまう。このような事例の背景には、「説明不足」だけでなく、「必要な情報の欠如」という問題があります。

 

医師は患者の言葉をもとに思考を組み立てています。したがって情報が抜け落ちると、判断の精度が鈍り、誤った方向に進む可能性が高まります。優れた医師は的確な質問によって患者から情報を引き出しますが、すべてを医師の技量に依存していては、常に最高の医療が享受できるとは言い切れません。

 

医療事故を繰り返す人には、いくつかの共通した傾向があります。ひとつは、経過やこれまでの治療を正確に伝えることができないこと。もうひとつは、自分の身体に起こった変化を正確に受け止めていないことです。

 

このような人は、自分の身体からのサインを見逃しやすく、異変に気づいても「そのうち治るだろう」「気合いで治せる」と受け止めてしまう傾向があります。結果として受診のタイミングを逃し、事態を複雑にしてしまうのです。

自分の身体の声を聴ける人は、医師の話も聴ける

ここで、もう一つの重要な要素に触れておきたいと思います。

 

医師の話を上手に聴ける人は、同時に自分の身体の声を聴ける人です。身体の変化に敏感で、「いつもと違う」と感じたときに、それを正確に言葉にできる。どこがどう違うのかを自分で整理して受け止められる。これは単なる感受性ではなく、自分の身体を観察する力です。

 

身体の声を聴くことができる人は、医師の説明も素直に受け止めることができます。なぜなら、身体の中で起こっていることを理解しようとする意識があるからです。自分の感覚と医師の説明を照らし合わせながら、「ああ、そういうことか」と納得する。そのプロセスの中で、医師と患者の思考が一致していきます。

 

反対に、自分の身体のサインを無視したり、都合の悪い変化を見ないようにする人は、医師の説明も部分的にしか受け取れません。「言われたことがよく分からない」「ピンとこない」と感じる人の多くは、実は自分の身体の声に耳を傾けていないのです。

 

患者力とは、医師との対話力だけでなく、自分の身体と対話する力でもあります。身体の声を聴き、それに素直に従うこと。それが、病気を早く発見し、治療を円滑に進める第一歩なのです。

助けられる人の共通点

「繰り返し助けられる人」には、3つの共通点があります。

 

第1に、症状や変化を的確に言葉で説明できる人。

 

第2に、医師の話をきちんと聴き、理解できたこと、理解できていないことを明確に伝えられる人。

 

第3に、医師の指示を守り、次の診察で経過を正確に伝える人。

 

たとえば、めまいを訴える患者が「朝起きたときに一瞬だけ回る」「起床後一時間ほどで落ち着く」「日中は軽快しているが、ふいにまた回ることがある」といった経過をスムーズに説明できれば、医師はその情報から診断を絞り込み、さらに思考を深め、必要な説明に時間を割くことができます。その結果、診断の精度が高まり、治療も円滑に進みます。

 

このような患者の配慮と協力は、診療の質を確実に高めるのです。

偶然を必然に変える

良い医療を引き寄せる人は、決して特別な人ではありません。診察室で落ち着いて話し、医師の説明を聴き、自分の身体の変化にきちんと目を向ける。その積み重ねが、偶然のような幸運を必然に変えていきます。

 

医師は一日に多くの患者を診ています。短い時間の中で多くの情報を整理し、瞬時に判断を下さなければなりません。そのとき、患者から得られる情報がよく整理されているほど、医師は力を最大限に引き出すことができるのです。

 

患者力とは、医師の思考を止めないだけでなく、自分の身体の声を正しく聴く力でもあります。

まとめ

医療事故を繰り返す人と、繰り返し助けられる人の違いは、運ではありません。医師との関わり方、情報の伝え方、そして何よりも自分の身体への耳の傾け方にあります。医師の話を丁寧に聴き、自分の身体の声にも誠実に耳を傾ける。それが、患者力の最も本質的な形です。

 

良い医療は、医師と患者が共に作っていくものです。

 

身体の声を聴く力。

医師の言葉を聴く力。

 

この2つの「聴く力」が揃ったとき、医療は偶然ではなく、必然のように人を助ける力を発揮します。

 

 

宮澤 哲夫

みやざわ耳鼻咽喉科 院長

医師・薬剤師

 

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