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医師の経験から生まれる「ひらめき」が無視できないワケ
医師の診断や治療は、決してマニュアル通りには進みません。
医学は科学に基づいて発展してきた学問ですが、実際に対象としているのは、一人ひとり個性と特徴を持った唯一無二の人間です。体質、生い立ち、生活環境、心理状態、これまでの病歴など、無数の要素が複雑に絡み合い、一人の人間を形成します。同じ人間は、ひとりとして存在しません。
医師がそのような患者に対して問題の本質を見抜き、最適な治療を選択するためには、論理的な思考だけでなく、経験から生まれる「ひらめき」も大切です。
多くの臨床医が経験しているこの「ひらめき」は、決して偶然の産物ではありません。診察の最中、ある患者の話を聞いているうちに、「もしかすると、これは単なる風邪ではない」「痛みの原因は別にあるのでは」などの直感が働くことがあります。
その感覚の背後には、患者の話し方、声の調子、表情、顔色、動作など、言葉に表せない無数の情報が関係しています。
この感覚は、同じ症状の患者を診察していても、あるときは思考が滑らかに進み、別のときにはまったく働かないことがあります。医師の思考は、患者との関係によって導かれることもあれば、逆に混乱させられることもあるのです。
この違いこそが「医師のひらめきを呼び寄せる患者」と「妨げる患者」との違いであり、このひらめきを引き寄せる力こそ、「患者力」というべきものです。
医師の思考にある「流れ」とは?
医師は診察中、絶えずいろいろな考えを巡らせています。
患者の最初の一言から仮説を立てはじめ、話が進む中でそれを修正しながら、診断の可能性を広げたり絞ったりする。この流れが滞りなく進むとき、医師の思考は深まり、診断はより精度を増し、的確になっていきます。
しかし、話が途中で脱線したり、同じ内容を何度も繰り返したりすると、医師の思考は遮られてしまいます。
一度止まってしまった思考を再構築するためには、時間と集中力を要します。この「思考の中断」が重なると、医師の感性は鈍り、判断は知識や事実に基づく機械的なものに傾いていきます。
医師の経験に基づく「勘」は、患者との対話の流れの中で育まれます。患者が落ち着いて順序立てて話し、医師の質問に簡潔に答えると、医師の思考の流れは加速し、診断のひらめきも生まれやすくなります。
良い診療とは、医師の思考が途切れずに続けられる環境を、患者と医師が共同で作ることでもあるのです。
きっかけは、患者のふとした言葉やわずかな態度
医師のひらめきは、単なる感覚的な直感ではありません。長年の経験や知識の蓄積の上に、小さな情報がきっかけとなって生まれる新たな発想の芽生えです。そして、そのきっかけは、患者のふとした言葉やわずかな態度の中に潜んでいます。
たとえば、耳の痛みを訴える患者が「痛みが強くなった」と話したあとに、「食事の時に悪化する」と何気なく付け加えたとします。
この一言によって、医師の思考は耳の疾患のみならず、顎関節や唾液腺の疾患の可能性へと広がっていきます。こうした小さな気づきの積み重ねが、診断の精度を上げていくのです。
医師の気づきは、患者とのかかわり方によって大きく左右されます。焦らず、落ち着いて、自分の身体の状況を伝えることのできる人の言葉には、診断のヒントが多く含まれています。
一方で、医師と敵対的に向かい合ってしまうと、医師は起こっている病気の本質が見えにくくなってしまいます。
「痛くてつらい」「なんとかしてほしい」などの訴えが強すぎたり、以前の治療で完全に回復しなかったなど負の感情が前面に出ると、医師の対応は責められることのないよう、防衛的な方向に傾きます。
医師のひらめきを呼び寄せる人は、単に情報を伝えるのみではなく、医師の思考を自然に動かし、言葉の奥から答えを引き出すことのできる人なのです。
話が広がり、肝心の情報にたどり着かないと…
一方、医師のひらめきを妨げてしまう人もいます。それは、必ずしも故意によるものではなく、無意識のうちに診療の流れを乱してしまう人です。具体的には次のようなタイプが挙げられます。
第一に、話が長く、要点がぼやけてしまうタイプです。
医師が「いつから痛みがありますか」と尋ねると、「それがですね、三日前に孫が来て、その時は大丈夫だったんですけど、庭で一緒に遊んで、そのあと買い物に行ったんですけど……」と話が広がり、肝心の「いつ」が分からない。
医師は情報を整理することに労力を奪われ、集中が途切れていきます。
第二に、前医への不信感を過度に訴えるタイプです。
「前の先生には話を聞いてもらえなかった」「その薬は前にも処方されたが効かなかった」などと否定的な話を繰り返されると、医師の思考は防御的になっていきます。
「自分の説明も否定されるかもしれない」と感じてしまうと、医師の説明はより批判されにくい“守り”に傾いていきます。
第三に、医師の話を遮って自分の意見を挟むタイプです。医師が考えを言葉にして整理している最中に別の話題が割り込まれると、思考の流れは分断されます。
こうした状況に遭遇すると、医師の判断は、柔軟な思考の中で育まれるのではなく、教科書の基本から外れないように、あるいは後に判断ミスを指摘されないようにという防衛的な判断を優先していきます。
結果として、診療はより教科書的で機械的なものに傾き、規格化された最低限の医療を提供するにとどまってしまいます。
医師の思考が活性化するとき
診療の現場で、医師の思考を育むものは安心感です。患者との間に落ち着いた会話が成立すると、医師の頭の中ではいろいろな考えが広がり、「もしかしたら」という新たな視点が生まれます。
反対に、強い不信感や敵意を感じると、医師の思考は防御的で機械的になります。「誤解されるかもしれない」「不用意なことを話すと攻撃されてしまう」、そんな不安がよぎると、思考の幅は狭くなり、ミスや誤解を避けた最小限の説明で診察を終えようとする傾向が強くなってしまいます。
診察する医師もまた人間です。信頼と安心感の空気がある診察室では、思考が自然に広がり、柔軟で創造的な発想が生まれていきます。逆に、緊張や不信感が漂う空間では、思考は萎縮して防衛的になります。
診察室で大切なのは、言葉だけではありません。表情、うなずき、沈黙の「間」などの非言語的な要素も、医師の思考に大きな影響を与えます。
医師が話しているときに、患者が軽くうなずく。そのわずかな反応が、医師に「話が伝わっている」という安心感を与えます。
反対に、無表情であったり、うつむいたままだと医師は不安になります。「話が難しかったのか」「誤解されていないか」と考え、理解しているかを確認したり、言葉を換えて繰り返したりと、説明にエネルギーを費やします。
もちろん、医師の説明が理解しにくい場合には、その確認はとても有効です。しかし、理解できたかどうかをしっかり伝えることができれば、それだけで医師の負担は軽減され、より深い思考へと進みやすくなります。
また、会話の間に訪れる沈黙にも、質の違いがあります。
落ち着いた「思考の間」は、医師にも余白を与えます。しかし、焦りや怒りを含んだ沈黙は、医師に緊張を伝え、思考の流れを乱します。診察室の空気は、医師の思考の質を決める大切な要素です。
医師のひらめきは、患者とともに作られる「空気」によって支えられているのです。
カルテが整うと経過が明確に確認できるようになる
医師がひらめきを得やすい患者とは、どのような人でしょうか。もう一度、整理してみましょう。
それは、次の三つの特徴を備えた人です。
一つ目は、自分の身体の変化を冷静に観察できる人です。感情に流されず、いつ、どんなときに、どのように症状が起こるかを具体的に語ることのできる人は、医師に診断の手がかりを多く与えます。
二つ目は、医師の話を最後まで聴ける人です。説明を遮らず、聴きながら理解しようと努めることのできる人は、医師の思考の流れを妨げません。
三つ目は、信頼を前提に対話できる人です。医師の提案を一度受け止め、その上で質問をする。この「受け止めてから考える」姿勢が、医師の心を開き、思考を広げていきます。
このような患者の場合、診療記録(カルテ)は整然としたものになります。そして、カルテが整うと経過が明確に確認できるようになります。
このようなカルテを残す患者の場合、わずかな異変が訪れたときに、その変化がカルテの上に明確に現れ、医師はいち早く的確に対応することができます。
良い患者は、良いカルテを残します。それは、医師の思考と判断を支える大きな力となります。
「順序立てて話す/聴きながら受け止める/落ち着いた態度を保つ」
医師が自由に思考を広げられるように、余白を与え、信頼の空気をつくる。そのために特別な知識は必要ありません。必要なのは、「順序立てて話す」「聴きながら受け止める」「落ち着いた態度を保つ」という三つの行動です。
医師は安心して考えられる条件が整うと、思考は深まり、それまでの多くの経験と結びついて広がっていきます。その過程で、光のように「ひらめき」が生まれます。その瞬間こそ、患者力が医師の力を引き出した場面と言えるでしょう。
まとめ
医師のひらめきは、患者の信頼と安心感の中から生まれます。
患者が落ち着いて話し、医師の説明を遮らず、身体の変化を冷静に語る。その一つひとつの行動が、医師の思考を促し、診断の精度を高めていきます。反対に、不安や不信感が会話を支配すると、医師の思考は狭まり、ひらめきは遠ざかってしまいます。
良い医療は、医師の努力だけでは生まれません。患者が医師の思考の流れを支え、医師が患者の声に耳を傾けるとき、そこに偶然を超えた奇跡が訪れます。
医師のひらめきを引き寄せるのは、医師を信じ、医師の思考を支える姿勢です。そしてその力は、誰にでも備わる「患者力」の中にあるのです。
宮澤 哲夫
みやざわ耳鼻咽喉科 院長
医師・薬剤師
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