ゆとりある暮らしのはずが…地方移住で見えた現実とのギャップ
「こんなはずじゃなかった、と思いました」
そう振り返るのは、孝夫さん夫妻(仮名・ともに60代後半)です。
孝夫さんは定年まで会社員として働き、退職金は約2,000万円。年金は夫婦で月約24万円。都内の賃貸住宅で暮らしていましたが、老後を見据え、地方への移住を決断しました。
「家賃がなくなれば、かなり楽になると思ったんです」
購入したのは、地方都市の郊外にある中古住宅。価格は約900万円。住宅ローンの負担がなくなることで、「年金でも十分やっていける」と考えていました。
移住直後の生活は順調でした。静かな環境、広い住まい、自然に囲まれた暮らし。
「最初の数ヵ月は、理想どおりでした。時間がゆっくり流れる感じで」
しかし、半年ほど経った頃から、少しずつ違和感が積み重なっていきます。
まず感じたのは、生活インフラの不便さでした。最寄りのスーパーまでは車で15分以上。病院も同様で、公共交通機関はほとんど使えません。
「車がないと生活が成り立たない。でも、この先ずっと運転できるのか不安になってきました」
さらに、想定外だったのが支出です。
「家賃はゼロになりましたが、その分、別の出費が増えました」
車の維持費、ガソリン代、住宅の修繕費、冬場の暖房費。特に築年数の古い家は、細かな不具合が頻繁に発生しました。
総務省統計局『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯は平均で月約4万円の赤字です。住居費が抑えられても、他の支出が増えれば、家計全体が楽になるとは限りません。
「“地方は安い”というイメージで判断していたのが甘かったんだと思います」
加えて、人間関係の難しさもありました。
「近所の方は親切なんですが、距離感が独特で…。都会のような気楽さはなかったですね」
日常の中で感じる小さなストレスが、徐々に積み重なっていきました。
