「家族に任せる」高齢期の財産管理に潜むリスク
「もう限界だよ。これ以上は無理だ」
その言葉を聞いたとき、栄子さん(仮名・84歳)は、耳を疑ったといいます。
長男の洋一さん(仮名・57歳)の言葉です。数年前から、栄子さんの通帳と印鑑は洋一さんが管理していました。きっかけは、栄子さんが転倒して入院したことでした。
「一人で管理するのが不安になって、お願いしたんです。“あんたに任せておけば安心だから”って」
年金は月約15万円。持ち家で家賃はかからず、生活は「質素だが困らない程度」と本人は認識していました。日々の出費は現金で受け取り、細かな管理は息子に任せる。そんな生活が続いていました。
「自分で全部やるより、その方が楽でしたし、何より家族だから大丈夫だと思っていました」
最初のうちは、特に問題はありませんでした。必要なときに生活費を渡してもらい、通院や買い物も息子が手伝うことがありました。しかし、少しずつ違和感が積み重なっていきます。
「お金をお願いしても、“今月は厳しい”って言われることが増えてきたんです」
栄子さんは、自分の生活費なのに遠慮させられているような気持ちになっていったといいます。
「“そんなに使ってないはずなんだけど”と思っても、通帳は手元にないから確認できないんです」
ある日、どうしても気になり、「一度通帳を見せてほしい」と頼みました。すると洋一さんは、少し困ったような顔をしながらも通帳を差し出しました。
その残高を見た瞬間、栄子さんは言葉を失ったといいます。
数年前には800万円近くあった預金が、半分以下に減っていたのです。
「頭が真っ白になりました。何に使ったのか、全然分からなくて」
問い詰めると、洋一さんはこう説明しました。
「生活費もあるし、車の維持費もあるし…こっちだって大変なんだよ」
栄子さんは、その言葉に強いショックを受けました。
「私のお金なのに、いつの間にか“共有扱い”になっていたんです」
総務省統計局『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、65歳以上の単身無職世帯の可処分所得は月約11.8万円、消費支出は約14.8円と、平均で赤字となっています。高齢者の生活はもともと余裕があるとは言いにくく、資産の取り崩しが前提です。そこに第三者による支出が重なれば、減少は一気に加速します。
「何にいくら使ったのか、はっきり分からない。それが一番怖かったです」
そして、洋一さんは冒頭の言葉を口にしたのです。
「もう限界だよ。これ以上は面倒見られない」
