「ゆとりある老後」のはずが…地方移住で直面した現実
「これで、やっと楽になると思ったんです」
そう話すのは、山本さん夫妻(仮名・ともに67歳)です。
夫は定年まで会社員として働き、最終的な退職金は約1,900万円。夫婦の年金は合計で月25万円ほど。都内の賃貸住宅に住んでいた2人は、「家賃のかからない生活」に切り替えることで、老後の不安を減らそうと考えました。
「このまま東京で暮らし続けたら、家賃だけでかなりの負担になりますから」
そうして選んだのが、地方への移住でした。中古の一戸建てを約800万円で購入し、住居費の大幅な削減を見込みました。
「これで固定費はかなり抑えられる。年金でもやっていけるはずだと考えていました」
移住直後の生活は、確かに新鮮でした。静かな環境、広い家、自然の多さ。都会とは違う時間の流れに、最初は満足していたといいます。
しかし、その感覚は長くは続きませんでした。
「思っていた以上に、生活が不便だったんです」
最初に感じたのは、移動の不自由さでした。最寄りのスーパーまでは車で20分。病院も同様で、公共交通機関は本数が限られています。
「運転はできますが、年齢的にずっと続けられるか不安もありました」
さらに、予想外だったのが生活費でした。
「物価は安いと思っていたんです。でも、実際にはそうでもなかった」
確かに家賃はかかりませんが、その分、車の維持費やガソリン代、修繕費などが新たに発生します。特に築年数の古い住宅は、細かな修理が頻繁に必要でした。
総務省統計局『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、消費支出が可処分所得を上回る赤字構造となっており、住居費が下がっても他の支出が増えれば、家計全体の余裕が生まれるとは限りません。
「“安くなるはず”という前提で動いていたのが、そもそも甘かったのかもしれません」
さらに、精神的な変化もありました。
「知り合いがいないんです。近所付き合いもありますが、気軽に話せる相手はなかなかできなくて」
都会では当たり前だった距離感が、ここでは通用しませんでした。
「ちょっとしたことを話せる相手がいないって、こんなに不安なんだと思いました」
