やっと入れたのに…特養入所後、突きつけられた“想定外”
「えっ……退去、ですか?」
そう聞き返したのは、会社員の高橋さん(仮名・52歳)でした。
父の正一さん(仮名・77歳)が特別養護老人ホームに入ったのは、その半年前のことです。年金は月15万円ほど。長く一人暮らしを続けていましたが、転倒をきっかけに足腰が弱り、食事や排せつ、服薬管理にも見守りが必要になっていきました。要介護3の認定を受け、在宅介護には限界が見え始めていました。
「デイサービスと訪問介護を使っても、夜のことまでは見られませんでした。私も仕事があるし、毎日実家に通うのはもう無理だと思ったんです」
特養はすぐには入れませんでした。申し込みをしてからも順番はなかなか回ってこず、高橋さんは何度も施設やケアマネジャーに連絡を取ったといいます。
「やっと空きが出ました、と言われたときは、正直ほっとしました。これで父も私も少し落ち着けると思ったんです」
入所当初、正一さんは環境の変化に戸惑いながらも、しだいに施設での生活に慣れていったように見えました。食事が決まった時間に出て、入浴も介助してもらえる。高橋さんも「ここなら安心できる」と感じていたといいます。
ところが、入所から数ヵ月が過ぎたころ、父の体調に変化が出始めます。誤嚥性肺炎で入院し、いったん施設に戻ったあとも、夜間の不穏や発熱が続くようになりました。痰の吸引や頻回な状態確認が必要になる場面も増え、施設側から面談の申し出がありました。
施設長は、資料を前にしながら静かに言ったといいます。
「このままの状態ですと、当施設での生活継続は難しい可能性があります」
高橋さんは耳を疑いました。
「特養って、最後までいられる場所じゃないんですか?」
施設側から説明を受けます。正一さんは短期間で入退院を繰り返し、医療的な管理の必要性が高まっている。この施設の人員体制では、夜間を含めた継続的な対応が難しい。より医療対応の厚い施設や療養先を検討してほしい、というのです。
特養は「終の住処」と受け止められやすい一方、厚生労働省『高齢者施設・障害者施設等における医療 参考資料』によると、介護老人福祉施設(特養)の退所者の約7割が死亡を理由として退所しています。他方で、医療機関への退所・退院理由としては「加療のため」が多く、特養では69.7%を占めています。つまり、特養で暮らし続ける人が多い一方で、病状の悪化や治療の必要性によって、医療機関や別の療養先へ移る現実もあるということです。
「やっと入れたのに、半年もたたないうちに“次を探してください”なんて……そんなのあまりに急だと思いました」
高橋さんはそう振り返ります。ですが、父の様子を見ていると、施設側の説明がまったく理解できないわけでもありませんでした。以前は自力で取れていた食事量も減り、咳き込みが増え、表情にも疲れが見えるようになっていたのです。
