定年まで残った同期に「歴然たる差」を見せつけられ後悔
Hさんが自分の過去の決断を心から悔やむようになったのは、とある飲み会の夜でした。かつての大手メーカー時代の同期数人から「みんな65歳で完全にリタイアしたから、久々に飲もう」と誘われ、都内の居酒屋へ出かけました。
久しぶりの再会に最初は話が弾んでいましたが、話題が定年後の生活や年金のことになると、Hさんは徐々に口数が少なくなっていきました。
「みんなが『これからは自由だ!』と笑い合っている姿を見て、ショックを受けました。最初は同じスタートラインに立っていたはずなのに、自分の年金は彼らの半分程度だったんです」
定年まで会社に残り、役職を務めあげた同期たちは、充実した退職金を受け取り、持ち家の住宅ローンも完済していました。さらに、彼らが口にした年金の受給額は、月に20万円から23万円程度。たまの旅行や趣味を楽しむには十分な額です。
「自分は貯金も持ち家もない。あのとき、なんで会社を辞めてしまったのかと後悔しています……」
飲み会がお開きとなり、満足げな同期たちと別れたHさん。自宅へと一人歩く帰り道、「転職なんてするんじゃなかった」という後悔が頭をよぎりました。
自分の人生の選択肢に責任を持つのは当然だと頭では理解していても、40代で会社を飛び出した自分と、定年まで働いた彼らとの「年金受給額の差」を思い出すたび、胸の奥がざわつくそうです。
加入期間が明暗を分ける年金制度の現実
なぜ、40代での退職によって老後の年金にここまでの差が生まれるのでしょうか。厚生労働省が公表しているデータから、そのシビアな現実が浮き彫りになります。
厚生年金の受給額は、加入していた期間の長さと、現役時代の給与水準によって決まります。定年まで約40年間、厚生年金に加入し続けた場合と、Hさんのように40代でドロップアウトし、給与ダウンや国民年金への切り替えを経験した場合とでは、将来受け取る年金額に大きな開きが生じる仕組みになっています。
「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、厚生年金保険(第1号)の老齢年金受給権者の平均年金月額は約15万円となっています。しかし、これはあくまで全体の平均値です。大手企業で定年まで勤めあげた会社員であれば、月額18万円〜23万円程度を受給するケースは決して珍しくありません。
一方で、40代で退職して転職を繰り返したり独立したりした人は、生涯の平均給与水準や厚生年金の加入期間が短くなるため、受給額が10万円台前半、あるいはそれ以下に留まることが考えられるでしょう。
近年はキャリアアップのための転職が一般的になり、働き方も多様化しています。しかし、現在の日本の社会保障制度は、ひとつの企業や組織に長く勤め続けることで手厚い恩恵を受けられる仕組みが色濃く残っています。
目先の収入ややりがいだけでなく、老後という長期的なマネープランを見据えたうえで、キャリアの選択をすることが重要でしょう。
[参考資料]
厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
