見えていなかった独居父の暮らし
「まさか、家の中でそんなことになるなんて思っていませんでした」
そう話すのは、会社員の修さん(仮名・37歳)です。父・和夫さん(仮名・72歳)は、妻に先立たれたあと地方の持ち家で一人暮らしをしていました。年金は月15万円ほど。家賃負担はなく、修さんも毎月3万円を仕送りしていたため、「生活は何とか回っている」と考えていたといいます。
「父は“こっちは大丈夫だから”としか言わない人でした。自分も、足りないなら足りないと言うだろうと思っていたんです」
ところがある冬の夜、和夫さんが自宅で亡くなっているのが見つかりました。室内は冷え切っており、暖房は止まっていました。
居間には厚手の上着と毛布が重ねて置かれ、台所には使いかけの食材が少し残っているだけ。派手に荒れていたわけではありませんが、「暮らしが細っていた」ことだけは一目で分かったといいます。
「灯油のにおいもしないし、エアコンもほとんど使った形跡がなかった。あんなに寒いのに、どうして暖を取らなかったのかと…」
厚生労働省の健康づくり支援サイトでは、18℃以下の低い室温は健康に悪影響を及ぼす可能性があると示されています。高齢になると寒さへの感覚が鈍くなり、暖房を控えがちになることもあります。
修さんが言葉を失ったのは、遺品整理で通帳を見たときでした。自分が毎月振り込んでいた3万円が、ほとんど手つかずで残っている月がいくつもあったのです。生活費に使われているはずの仕送りが、そのまま積み上がっていました。
「足りないから亡くなったんじゃない。使わなかった、いや、使えなかったのかもしれないと思いました」
さらに目に留まったのが、毎月決まった時期に記帳される「29,800円」の振替記録でした。年金や仕送りが入金されたあと、ほぼ同額が別口座へ移されていたのです。修さんにはその数字の意味が分かりませんでした。
