(※写真はイメージです/PIXTA)

私立大学に比べ、同窓会組織や寄付文化が希薄とされてきた公立大学。しかし、その弱点を逆手に取り、独自の基金を構築したことで、経済的背景に左右されない学生たちの研究留学の道が拓かれました。本記事では、河合塾の入試難易度予想ランキングで、偏差値70台を記録している奈良県立医科大学理事長・学長の細井裕司氏の著書『挑戦する人か、文句を言う人か』(日経BP)より、同大学の戦略的な資金調達方法について解説します。

納税の一部を母校のために…ふるさと納税の活用

さらに、未来への飛躍基金の創設にあたって、奈良県と協議を重ね、寄付の方法の一つとして、「ふるさと納税」制度を利用することにしました。

 

寄付希望者はまず本学に「ふるさと奈良県応援寄附金申込書」を提出し、奈良県にふるさと納税を行います。寄付金は全額、奈良県から本学「未来への飛躍基金」に充当され、寄付者には、税務上の優遇措置が与えられ、さらに、奈良県外在住者は返礼品も受け取ることができます。現在では多くの公立大学が採用するようになっていますが、奈良医大は早期から取り組んだ大学の一つでした。

 

ふるさと納税は、税務上の優遇が大きい点に特徴があります。例えば、年間収入1500万円の勤務医が30万円を寄付した場合、2000円の自己負担を除き、全額が所得税や住民税から控除されます。この制度は高所得層にとって非常に利用価値が高いものですが、当時はまだ、意外にも利用していない人が多いと聞いていました。そこで私はこのような制度があれば「納税の一部を母校の未来のために」と考えてくれる方が数多くいるのではないかと考えました。

 

もちろん、基金を創設すれば、自動的に資金が集まるわけではありません。基金の実効性を高めるため、2つの施策を展開しています。1つは、基金担当学長補佐を任命し、組織的な寄付のための広報活動を展開すること。もう1つは、500万円(個人)以上の寄付をいただいた方に対する紺綬褒章授与申請を行い、感謝の意を表す顕彰制度を整えています。

財源確保のための寄付金創設で14億円超を調達

 

こうした取り組みの結果、初年度である2015年度の寄付申込額は1億8855万円に達し、翌2016年度は2億349万円となりました。その後も年によって増減はあるものの、安定的に、1億円前後の寄付を得て累計14億円超を集めるに至っています。

 

基金の主な使途は多岐にわたります。学生の海外・国内の大学、研究機関への派遣費用や研修参加費用、国家試験模試費用などの支援、大学院医学研究科博士課程進学者への奨学金、クラブ活動の補助、臨床教育のための高度シミュレーター購入費用、さらには地域社会とつながる健康長寿イベントの開催など、幅広い教育・研究・社会貢献活動を支えています。

 

未来への飛躍基金は、単なる資金調達の手段ではありません。第一に、大学が自らの意思で財源を確保する姿勢を示したことで、挑戦を可能にする自立性を獲得しました。第二に、同窓生や在学生の保護者、地域社会や企業など、多様なステークホルダーが大学の未来を支える主体となる仕組みとなりました。第三に、寄付という形で大学に関与する人々が増えたことで、奈良医大は県立大学の枠を超え、「社会に開かれた大学」へと発展する基盤を整えています。

 

教育、研究、診療の質を高めるためには、挑戦を継続できる独自の財源が不可欠です。未来への飛躍基金は、その理念と仕組みの両面において、奈良医大が次の時代に進むための推進力となっています。

 

 

細井 裕司
奈良県立医科大学
理事長・学長

 

 

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※本連載は、細井裕司氏による著書『挑戦する人か、文句を言う人か』(日経BP)より一部を抜粋・再編集したものです。

挑戦する人か、文句を言う人か

挑戦する人か、文句を言う人か

細井 裕司

日経BP

公立の医科大学理事長・学長による内部組織改革の実話。 著者の挑戦の根源にあったのは、地方の単科大学である奈良医大のブランド力を上げたいという思いだ。しかし、数々の改革に対しては、必ずといっていいほど「反対する…

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