救急搬送増加の要因は社会構造の変化
救急搬送件数の増加には、いくつかの社会的要因が重なっています。新型コロナウイルス感染症の流行によって一時的に生じた「受診控え」の反動もその一つです。コロナ禍では軽症時に救急要請を控える傾向が見られましたが、その反動で現在は「念のため」と救急車を呼ぶケースが増えています。特に夜間や休日など外来診療が限られる時間帯には、より安易に救急車に頼る傾向が強まっています。
また、地域によっては医師不足が深刻化し、夜間・休日診療を担う体制が不十分になっています。かかりつけ医を持たない人が体調悪化時に自力で受診できず、救急要請に頼らざるを得ない例も少なくありません。加えて、軽症でも救急車を呼ぶケースが増えていることや、地域医療構想に伴う病床削減で受け入れ余力が減少していることも、現場の逼迫に拍車をかけています。
しかし、こうした要因以上に大きな影響を及ぼしているのが高齢化です。総務省の統計によれば、救急搬送された患者のうち65歳以上が占める割合は2004年の42.5%から2024年には63.3%へと上昇し、現在では搬送患者の約3人に2人が高齢者となっています。
出所:『つなぐ医療 地域における二次医療機関の使命』(幻冬舎メディアコンサルティング)より抜粋
高齢者は複数の持病を抱えることが多く、軽い体調の変化が重症化につながりやすい特徴があります。転倒などによる骨折や、季節ごとの感染症や熱中症でも、命に関わるケースが考えられるのです。加えて、多くの薬を服用する高齢者は、副作用や薬の影響による体調急変も見逃せません。
さらに、認知症の増加も救急搬送を押し上げています。症状をうまく訴えられなかったり、服薬や体調管理がうまくできずに容体が悪化したりすることで、救急要請につながるケースも少なくないのです。
このように、コロナ後の受診行動の変化や医師不足なども背景にはありますが、救急搬送の増加を最も大きく押し上げているのは、やはり高齢化であることは間違いありません。
杉本 瑞生
医師
医学博士
緑風会病院 理事長
