いざというとき、頼れる人がいない…単身世帯に潜む不安
現在の日本では、単身世帯が全世帯の約4割に迫る状況にあります。未婚者や離婚経験者の増加に加え、以前よりも親族とのつながりが希薄になっています。また、親やきょうだいが高齢化していくなかで、いざという時に頼れる人が身近にいない、という人も増えてきています。
「まだ元気だから大丈夫」「今は困っていないから平気」と、将来のリスクを先送りにしてしまうことは少なくありません。しかし、その油断が思わぬ事態を招く可能性もあります。
単身者の老後トラブルを「未然に防ぐ手続き」とは?
単身者の老後で実際に起こりやすいトラブルには、次のようなものがあります。
●突然の病気や認知症などによる判断能力の低下
●預貯金や財産の管理ができなくなる
●誰にも知られず孤独死し、遺品整理が他人任せになる
これらの問題は、「突然起こる」というよりも「なにも備えをしていなかった結果」として表面化することが多いのが実情です。
このような事態を避けるにはどうすればいいのでしょうか?
★任意後見制度/民事信託で「判断能力の低下」に備える
老後の不安として多く挙げられるのが、認知症や判断能力の低下です。これに備える制度として、主に以下の2つがあります。
1. 任意後見制度
任意後見制度とは、将来判断能力が低下した場合に備えて、信頼できる人をあらかじめ後見人として指定しておく制度です。元気なうちに契約を結んでおくことが前提となります。
2. 民事信託(家族信託)
民事信託(いわゆる家族信託)は、自身の財産管理や運用を信頼できる人に託す仕組みです。財産の管理方法を柔軟に設計できる点が特徴です。
ただし、これらの制度は契約行為のため、認知症を発症してからでは手続き自体ができなくなってしまいます。元気で判断能力が十分にあるうちに契約する必要がありますので、早めの準備が重要です。
★死後事務委任契約/見守りサービスの活用で「孤独死リスク」を軽減
近年は、行政や民間による見守りサービスや、死後事務委任契約といった単身者向けの支援も広がっています。
死後事務委任契約とは、孤独死のリスクを軽減し、亡くなったあとも、葬儀の手配、家財の処分、各種届出など、死後に必要となる事務手続きを、あらかじめ他者に委任しておく契約です。
なお、死後事務委任契約は相続そのものを決めるものではなく、遺言書とは別に活用する制度です。
★遺言書の作成で「自分亡きあとの財産」の行方を決める
そして重要なものに「遺言書の作成」があります。
単身者にとって、遺言書は自分の意思を残すための最後の手段です。相続人がいない方が、自分の財産をどう引き継ぐかを明確にしないまま亡くなった場合は、財産は最終的に国庫へ帰属することになります。
「お世話になった親族や知人に遺贈したい」「共感する慈善団体に寄付したい」といった思いがあるなら、遺言書の作成が不可欠です。
法的にも確実性が高い「公正証書遺言」がお勧めです。
実際の準備を進める手順
各種契約や遺言書の作成は、自分で行うことも不可能ではありませんが、民事信託などは契約内容が複雑です。
また「任意後見契約」や「信託契約」、「死後事務委任契約」なども、制度の理解や文書の正確性が非常に重要となるため、作成には専門的な知識が求められます。
どの手続きを行う場合も、司法書士や弁護士などの専門家に早めに相談し、ひとつずつ整理していくことが、後悔のない準備につながります。
ひとりだからこそ「早めの備え」を
単身者の老後対策に先送りは厳禁です。「まだ早い」と考えて放置していると、突然の病気や認知症の発症で、思わぬリスクに直面するリスクがあります。いまから少しずつ準備を始めることが重要です。
まず取り組みやすいのは、財産まわりの整理と遺言書の作成でしょう。その後は専門家の力を借りて、判断能力の低下に備えた任意後見制度や民事信託、死後事務委任契約の活用を検討してはいかがでしょうか。
万が一の生活や死後の手続きを整えておくことは、将来の安心につながります。ひとりだからこそ「早めの備え」が大切なのです。
「何から始めればいいかわからない」という方は、司法書士や弁護士といった専門家に相談しながら、一歩ずつ準備を進めていくことをお勧めします。
加陽 麻里布
司法書士法人永田町事務所 代表司法書士
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