かつては成功の象徴だった「苗場のリゾートマンション」
「当時の自分は、人生の勝者だと本気で信じていたんです。でも、誰もいない部屋に毎月4万5,000円。私の老後は、この『負動産』に壊されました」
田中耕作さん(仮名・75歳)は、新潟県・苗場エリアに建つリゾートマンションの一室で、色褪せたソファに腰掛けながら力なく語ります。
田中さんは現役時代、大手電機メーカーの営業部長を務めていました。年収は1,200万円を超え、都内に構えた自宅ローンの返済も順調。将来の役員候補のエリート会社員として、まさに人生の絶頂期にありました。
今から36年前の1990年、そんな彼がバブル絶頂期に手に入れたのが「苗場の別荘」です。
苗場スキー場まで徒歩圏内という一等地にそびえ立ち、館内には豪華な温泉大浴場や本格的なレストランを備えた、当時憧れの的だったリゾートマンション。そのなかでも、家族4人がゆったりと寛げる「55平米の1LDK」という広々とした一室を、3,200万円という今では考えられないような高値で現金一括で購入しました。
「当時は空前のスキーブーム。関越自動車道は大渋滞でしたが、それでも週末になれば家族を連れて、この山へ向かうのが誇らしかった。冬はスキー、夏は涼しい高原でテニス。専業主婦として家を守ってきた妻も『素敵な退職後の住まいができた』と、この華やかな買い物を誰よりも喜んでいました。現役を退いたあとは、ここを拠点に悠々自適な二拠点生活を送る。それが自分たち夫婦への“最高のプレゼント”になるはずだったんです」
管理費・修繕積立金に固定資産税や住民税を合わせた月々約4万5,000円の維持費は、趣味の経費として現役時代には気にも留めない金額でした。
しかし、月々20万円(手取り約17万円)の年金生活に入った今、状況は一変しました。
手取り額の4分の1以上を強制的に飲み込んでいくこの「4万5,000円」という固定費は、一日も滞在しなくとも容赦なく口座から引き落とされます。
かつての「成功の象徴」は、今や彼の老後をじわじわと蝕む負動産へと姿を変えていました。
年金の4分の1を削り取る「年間54万円の呪縛」
「滞在していなくても、毎月4万5,000円が引き落とされる。ここへ来るたびに高速代やガソリン代を計算してしまい、ちっとも楽しくないんです」
田中さんの手取り17万円に加え、妻の年金を合わせても、世帯の受取額は月23万円ほど。そこから別荘の維持費を引けば、手元に残るのは18万円強です。そこからさらに都内の自宅の固定資産税や夫婦の医療費を支払えば、家計の余裕はほとんどありません。
さらに、かつて成功の象徴だったリゾートマンションは、静かに崩壊していました。 立体駐車場は故障したまま放置され、エントランスにはカビ臭い空気が漂っています。
「昔は避暑地として最高でしたが、今は窓を開けても不快な熱気がこもるだけ。古い設計でエアコンもつけられず、ただじっと耐えるしかありません」
生活の足も、75歳の身体には重くのしかかります。 近隣の個人商店は軒並みシャッターを下ろし、食料品の買い出しには車で30分かけて越後湯沢の市街地まで山道を下らなければなりません。
「30年以上の思い出はあります。でも、死ぬまで続く年間54万円の支払いや、この不便な暮らしがその代償だなんて。夢の終わりが、こんなに惨めだとは思わなかった……」
