(※写真はイメージです/PIXTA)

親の認知症対策として、近年注目されている「家族信託」。成年後見制度のような窮屈さがなく、信頼できる家族だけで資産を守れる仕組みが評価されています。しかし、その「家族だけで完結する」というメリットこそが、時に取り返しのつかない悲劇を生む引き金になることも。日経マネー(編)の書籍『絶対に避けたい!損する相続実例25』(日経BP)より、A子さんの事例とともに、家族信託の落とし穴を解説します。

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自宅を売却し、両親を高級老人ホームへ

約2年後、父が階段から落下して脚を骨折してしまった。自立歩行が困難になり、緊急で介護老人保健施設(老健)に入ったのだが、そこで過ごす数カ月の間に認知機能に衰えが見え始めた。

 

実は姉妹たちはこの2年の間、父と母が安心して暮らせる良い方法について、折に触れて話し合っていた。その過程で「父まで介護が必要になったら、誰も住まなくなる実家を売却し、認知症や終末期でも充実した医療サポートを受けられる高級老人ホームに2人で入れる」という案が有力になり、施設の目星もついていた。

 

実際に父が認知症になったため、A子さんはこの案を姉妹のグループチャットで再度提示した。妹たちはおおむね賛成してくれた。

 

ただ、長女だけは既読が付いたものの返事がない。父のいる介護老人保健施設は6カ月しか滞在できない。早く具体的な話を進めないと、と焦ったA子さんは受託者である長女を呼び出した。

 

ここで既読無視の理由が明らかになる。なんと、長女は父の預貯金を勝手に引き出して使っていたのだ。受託者の立場が悪用される形で実家まで既に売りに出され、買い手も決まり、売却代金は入金前という状況だった。

 

希望する高級老人ホームの入所には、両親2人合わせて1億円近い一時金が必要だ。仮に一時金は実家の売却代金で賄えたとしても、入所後の月額利用料は明らかに払えない。

 

両親の豊かな老後プランが崩れた原因

実は長女の夫の営む事業が、数年前から苦しい状況にあった。数千万円の借金を抱え、急場をしのごうと手を出した投資にも失敗し、負債総額は1億円を超えていた。

 

「父の家を売った資金を一時的に借りられないか」と夫に持ちかけられた長女は、夫の苦境の前に拒むことができなかった。「一時的に借りるだけだから。後で返せばいいと思った」と泣きながら謝る長女。A子さんが描いた両親の豊かな老後に向けたライフプランは、はかなくも崩れ去ってしまった。

 

次ページ老親の財産を自分のものと錯覚しがちな理由

※本連載は、日経マネー(編)の書籍『絶対に避けたい!損する相続実例25』(日経BP)より一部を抜粋・再編集したものです。

絶対に避けたい!損する相続実例25

絶対に避けたい!損する相続実例25

日経マネー(編)

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