(※写真はイメージです/PIXTA)

夫が亡くなった際の相続税申告では、被相続人本人の財産だけでなく、配偶者や家族名義の預金についても税務署のチェックが及びます。なかでも問題になりやすいのが、専業主婦である妻名義の預金、いわゆる「へそくり預金」です。この預金は、本当に妻固有の財産として扱えるのでしょうか。それとも、夫の相続財産として申告すべきなのでしょうか。具体的な設例と判例をもとに考察します。

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妻のへそくりは、「夫婦の共有財産」として相続税がかかることも

生活費や教育費は通常、贈与が行われてもそれが必要な範囲であれば贈与税が非課税となります。しかし、渡された生活費の余りを妻が預金し、それが「夫婦の共有財産」と判断された場合、夫の持ち分が含まれることから、その財産は相続税の対象となってしまいます。

 

夫婦間において、働いている夫が専業主婦である妻に生活費を渡すこと自体は、きわめて一般的です。その際、「余った分は返さなくていい」「お前にやる」といった言葉が交わされることも少なくありません。

 

しかし、このような日常の「やり取り」だけでは、税務上の贈与が成立したとは認められないと解されています。

 

税金訴訟ではありませんが、生活費の余剰金の帰属が争われた裁判例として、東京地裁昭和59年7月12日判決があります。

 

同判決で裁判所は、次のように述べています。

 

生活費の余剰について自由に使ってよいと言われていたとしても、単にその余剰金を預金したにすぎない場合には、夫婦共同生活の基金としての性格を失わず、夫婦の共有財産と解するのが相当である。

 

この判例からもわかるとおり、「余ったお金は自由に使ってよい」という言葉だけでは、贈与があったとは評価されにくいのです。

へそくり預金を相続財産に含めないための要件

したがって、いわゆる「へそくり預金」について、被相続人である夫の相続財産ではないと主張するためには、一定の要件を満たす必要があります。具体的には、次の3点が重要とされています。

 

(1)妻が預金を実質的に管理・支配していること(実質的帰属)

(2)預金口座が妻名義であること(形式的帰属)

(3)生活費の残額を妻に贈与する旨を定めた契約書や公正証書などの客観的証拠があること

 

これらの要件をすべて満たしていれば、たとえ原資が夫の所得であったとしても、その預金をただちに夫の相続財産と認定することは難しいと考えられます。

 

もっとも、(3)のような贈与契約書を作成している家庭は現実には少なく、証拠資料が残されていないケースが大半です。そのため、税務調査の場面で課税庁との見解が食い違い、争いに発展することも少なくないというのが実情です。

 

なお、私見ではありますが、たとえ(2)や(3)の要件を欠いていたとしても、へそくり預金は「実際に管理し使っていた者に帰属する」と解するほうが、実態に即した妥当な考え方ではないかと思われます。

 

相続税の実務においては、名義だけでなく「誰が実際に管理し、どのように使っていたのか」という点が、今後ますます重要になっていくでしょう。

 

 

八ツ尾 順一

大阪学院大学 教授

 

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