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「夫の背中」にすべてを預けた人生
寺崎優子さん(仮名/62歳)は、現在アルバイト先を探している専業主婦です。夫の幸助さん(仮名/72歳)と二人で暮らしていました。
幸助さんは医師として長く勤務し、65歳で定年退職。退職金として3,000万円を受け取り、その後もアルバイトの非常勤医師として複数の病院を掛け持ちし、収入を得ていました。
優子さんは22歳のとき、職場で出会った幸助さんと結婚。その後は3人の子どもに恵まれ、育児と家庭を守ることに専念してきました。夫は多忙を極め、家のことはすべて優子さんが担う――。いわゆる「内助の功」で夫を支え続けてきたのです。医師という職業柄、収入は高く、50代のころには年収は2,000万円超にもなりました。生活にお金の不安を感じたことは一度もありません。
優子さんはお金のことも、将来のことも気にせず、家庭を守る専業主婦として懸命に生きてきたのでした。
夫の死が奪った“生活の前提”
転機は突然訪れました。ある日、幸助さんが急逝したのです。
優子さんは遺族厚生年金として月約15万円を受け取れるように。65歳以降、自分の年金と合わせると月約22万円を受け取ることができる計算です。一般的にみれば、決して少ない金額ではありません。
問題は夫が生きていたころの生活水準がそのまま残っていたことでした。夫の生前の収入は以下。
・年金月6.5万円(在職老齢年金制度により老齢厚生年金が全額支給停止)
・アルバイト収入月数十万円~100万円(平均50万円程度)
しかし、外食、習い事、車の維持費、交際費……。優子さんなりに節約している“つもり”でも、なにをどう削ればいいのかわからず、毎月の支出は50万円程度に膨らみます。
「入ってくるお金」と「出ていくお金」のバランスが完全に崩壊していました。夫が残した退職金や死亡保険金は、みるみるうちに減っていきます。
底知れぬ危機感を覚えた優子さんは、62歳にしてアルバイトを探しはじめました。しかし、現実は冷酷です。PC操作はほとんどできず、社会人としてのブランクが長すぎた優子さんにとって、仕事探しは困難を極めたのです。面接用にスーツを新調し、体力的に厳しい仕事は避け、事務や軽作業のパートに応募しましたが、面接で落とされ続けました。
時給1,150円のパートの面接で、「パソコンは使えますか?」と聞かれたときのこと。「インターネットでの検索くらいなら……」と答えた優子さんに、面接官は履歴書の長い空白期間に目を落とし、「ふっ」と失笑を漏らしました。
「検索だけでは、仕事になりませんので」
悪気はなかったのかもしれません。しかしその一瞬の乾いた反応で、優子さんは自分の市場価値を残酷なまでに突きつけられたのです。
「私には、できる仕事がなにもないんだ。外では無能なんだと思い知らされました」
結果、優子さんが受かったのは、近所のコンビニのアルバイト。少しでも稼ぐため、あえて時給の高い深夜に働くことを選びました。時給は1,120円、深夜割増でも1,300円ほどです。毎月10万円ほど収入を得ることができるようになりましたが、それでも支出の穴埋めには足りません。もっと高給のアルバイトはないか、現在も探しています。
それぞれ家庭を持って独立している子どもたちに頼ることも難しく、減り続ける預金残高を眺めては、激しい不安に苛まれる日々が続いています。

