押入れの奥にあった、鍵付きの木箱
「父は、慎ましく年金だけで暮らしていると思っていました」
そう語るのは、千葉県在住の主婦・佐野智子さん(仮名・57歳)。父・幹夫さん(仮名・86歳)は10年前に妻を亡くし、その後は郊外の一戸建てで一人暮らしをしていました。
「持ち家でローンもなく、生活も質素でした。父自身、“贅沢はできないけど、困ってはいない”とよく言っていて。お金の話をすると、決まって『心配いらない』って笑っていました」
月14万円の年金で、散歩と時々の外食を楽しむ生活。少なくとも、娘の目には「問題なく暮らしている高齢者」に映っていたといいます。
父の葬儀を終え、智子さんが実家の整理を進めていたときのこと。使われていなかった和室の押入れから、ずっしりと重い木製の箱が出てきました。
鍵は、机の引き出しの封筒にありました。恐る恐る箱を開けた瞬間、智子さんは言葉を失います。
中にあったのは、未開封の現金封筒と、金融機関からの書類の束でした。
現金は10万円、20万円ずつ丁寧に分けられ、合計で約120万円。一方、その下に重なっていた書類には、
●カードローン利用明細
●借入残高:約73万円
●返済予定表
といった文字が並んでいました。発行元は、銀行系カードローンや信販会社名義のもので、いずれも父が現役時代に契約していたとみられるものでした。
「頭が真っ白になりました。お金が残っていること以上に、“借りていた”という事実が信じられなくて」
調べを進めるうち、父が数年前から借り入れを繰り返していた背景が見えてきました。
●持病の通院費・薬代
●給湯器や屋根の補修
●家電の故障
●葬儀や法事への備え
どれも、生活を続けるうえで避けられない出費でした。
「年金だけでは足りない月があっても、“子どもに迷惑はかけたくない”って思っていたんだと思います。だから、昔作ったカードの枠を使って、少しずつ補っていたんでしょうね」
