(※写真はイメージです/PIXTA)

2024年4月から相続登記が義務化されました。「3年以内に登記しないと過料がある」点ばかり強調されがちですが、現場の感覚では、本当に怖いのは罰則ではないと感じます。問題は、名義を変えないまま「実家を放置」することであり、法的に「だれの責任か分からない状態」を自ら作ってしまうことなのです。司法書士の加陽麻里布氏が解説します。

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なぜ相続登記は義務化されたのか…制度の本質

相続登記義務化の背景には、「所有者不明土地」の深刻な増加があります。相続が起きても登記がされないまま、何代も放置された土地が全国に広がり、公共事業が進まない、災害復旧が遅れる、周囲に危険を及ぼす…といった社会問題を引き起こしてきました。

 

つまりこの制度は、相続人を罰するためのものではなく、責任の所在を明確にするための制度です。

「登記していない実家」は、法律上どう扱われる?

相続が起きても、登記をしなければ、不動産の名義は亡くなった方のままです。この状態は、法律的には非常に中途半端です。

 

●相続人としての権利はある

●しかし、登記簿上は所有者ではない

●第三者から見れば、だれが責任者か分からない

 

このような宙ぶらりんの状態が、後々取り返しのつかない問題を生みます。

放置が招く最大のリスクは「賠償責任」

近年、自然災害や老朽化による事故が相次いでいます。倒壊した塀、崩れた斜面、倒木…。これらが第三者に被害を与えた場合、土地・建物の所有者は重い責任を負います。

 

ここで重要なのは、「登記をしていないから責任を免れる」という理屈は、基本的に通らないという点です。むしろ、

 

●管理できていない

●所有関係を整理していない

●危険を放置していた

 

という事情は、責任を重く評価される方向に働く可能性すらあります。

 

相続登記をしていないと、行政からの防災・是正の連絡が届きにくくなり、結果として被害が拡大する恐れもあります。

 

不動産は、「持っているだけで価値がある資産」から、「管理できなければ危険物になり得る財産」へと、すでに性質が変わっています。

過料より深刻なのは「時間が生む複雑化」

相続登記を先送りにすると、時間の経過とともに、問題は必ず複雑になります。

 

●相続人の一人が亡くなり、さらに相続が発生

●相続人が増え、関係が希薄になる

●連絡が取れない人が出てくる

 

こうなると「登記をしようと思っても、できない」という状態に陥ります。

 

実務では「もっと早くやっていれば簡単だったのに…」というケースを数多く見てきました。

「相続人申告登記」は万能ではない

義務化に合わせて新設された「相続人申告登記」は、遺産分割がすぐにできない場合の応急的な制度です。ただし、これは正式な名義変更ではなく、下記のような問題が残ります。

 

●不動産を売ることはできない

●担保にもできない

●結局、正式な相続登記が必要になる

 

あくまで「申告」であって、「解決」ではない…。この点を誤解したまま使うと、後で二度手間になります。

最低限押さえるべきポイントは?…司法書士のアドバイス

相続登記義務化後の時代において、最低限押さえるべきポイントはシンプルです。

 

●使うかどうかは別として、名義だけは早めに整理する

●相続関係が単純なうちに動く

●「管理できない不動産を引き継ぐこと」自体を見直す

 

相続登記は、不動産を活かすためだけの手続きではありません。将来の責任を明確にし、選択肢を残すための最低限の行為です。

年末年始は、実家を「放置資産」にしないための分岐点

年末年始は、家族が集まり、実家や土地の話題が自然に出る数少ない機会です。「この家、このままで大丈夫かな?」という気づきが、将来のトラブルを防ぐ第一歩になります。

 

相続登記義務化は、「急がせるための制度」ではありません。「これ以上、放置しないための合図」と考えるべきです。

 

実家が、将来の重荷になるか、きちんと整理された財産になるかの分かれ目は、相続人がいま動くかどうかにかかっています。次世代に負担を残さないよう、手続きをしっかり行いましょう。

 

【相続登記義務化後】
「実家を放置していないか?」確認用チェックリスト

 

①相続登記の状況を正確に把握しているか

 

□ 相続した不動産について、正式な相続登記をしている

□ まだ登記していない場合、相続発生から何年経過しているか把握している

□ 「相続人申告登記」と「正式な相続登記」の違いを理解している

 

※ 相続人申告登記は、義務違反を回避するための暫定的措置であり、売却・担保設定・活用ができる状態ではありません。

 

②名義が「誰の責任を示しているか」理解しているか

 

□ 登記簿上の名義が、亡くなった親のままになっていない

□ 名義が被相続人のままだと、誰が管理責任を負うのか曖昧になることを理解している

□ 行政や近隣からの連絡が、確実に届く状態か確認している

 

※ 名義放置は「責任を負わなくて済む」状態ではなく、責任の所在が不明確になる状態です。

 

③実家の管理状況を把握しているか

 

□ 建物の老朽化・倒壊・傾斜地・ブロック塀など、危険箇所を把握している

□ 空き家になっている場合、定期的な点検・管理をしている

□ 近隣に迷惑や危険を及ぼす可能性がないか確認している

 

※ 災害・事故時には、「管理していなかったこと」自体が責任判断に影響することがあります。

 

④固定資産税・費用の負担者が決まっているか

 

□ 固定資産税の納付者が明確になっている

□ 複数の相続人がいる場合、負担割合を共有している

□ 「誰かが何となく払っている」状態になっていない

 

※ 金銭負担の不透明さは、後の相続・売却時の紛争原因になりやすいポイントです。

 

⑤相続人が増える前に動いているか

 

□ 相続人の中に高齢者がいる場合、次の相続を想定している

□ 相続関係が単純なうちに登記を進める意識がある

□ 「そのうちやる」状態が続いていない

 

※ 時間が経つほど、登記は「面倒」ではなく「困難」になります。

 

⑥実家を「資産」ではなく「責任」として考えているか

 

□ 売る・貸す・住む予定がなくても、名義整理は必要だと理解している

□ 管理できない不動産を引き継ぐリスクを認識している

□ 必要であれば、手放す選択肢(売却・国庫帰属等)を検討している

 

※ 現在の制度では、「使わない不動産」ほど慎重な判断が必要です。

 

チェックリストの使い方

●すべて「YES」にする必要はありません

●「分からない項目がある」こと自体が、放置リスクのサインです

●家族で「登記してる?」「名義どうなってる?」と確認するだけでも十分です

司法書士からのひとこと

相続登記義務化は、「罰則を科すための制度」ではありません。名義を整理しないまま放置することで、将来の責任や選択肢を自ら失わないための制度です。

 

年末年始は、実家を「問題化する前」に向き合える、数少ないタイミングです。ぜひご自身の実家に目を向け、将来に向けた建設的な対策を立てていきましょう。

 

 

加陽 麻里布
司法書士法人永田町事務所 代表司法書士

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