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なぜ相続登記は義務化されたのか…制度の本質
相続登記義務化の背景には、「所有者不明土地」の深刻な増加があります。相続が起きても登記がされないまま、何代も放置された土地が全国に広がり、公共事業が進まない、災害復旧が遅れる、周囲に危険を及ぼす…といった社会問題を引き起こしてきました。
つまりこの制度は、相続人を罰するためのものではなく、責任の所在を明確にするための制度です。
「登記していない実家」は、法律上どう扱われる?
相続が起きても、登記をしなければ、不動産の名義は亡くなった方のままです。この状態は、法律的には非常に中途半端です。
●相続人としての権利はある
●しかし、登記簿上は所有者ではない
●第三者から見れば、だれが責任者か分からない
このような宙ぶらりんの状態が、後々取り返しのつかない問題を生みます。
放置が招く最大のリスクは「賠償責任」
近年、自然災害や老朽化による事故が相次いでいます。倒壊した塀、崩れた斜面、倒木…。これらが第三者に被害を与えた場合、土地・建物の所有者は重い責任を負います。
ここで重要なのは、「登記をしていないから責任を免れる」という理屈は、基本的に通らないという点です。むしろ、
●管理できていない
●所有関係を整理していない
●危険を放置していた
という事情は、責任を重く評価される方向に働く可能性すらあります。
相続登記をしていないと、行政からの防災・是正の連絡が届きにくくなり、結果として被害が拡大する恐れもあります。
不動産は、「持っているだけで価値がある資産」から、「管理できなければ危険物になり得る財産」へと、すでに性質が変わっています。
過料より深刻なのは「時間が生む複雑化」
相続登記を先送りにすると、時間の経過とともに、問題は必ず複雑になります。
●相続人の一人が亡くなり、さらに相続が発生
●相続人が増え、関係が希薄になる
●連絡が取れない人が出てくる
こうなると「登記をしようと思っても、できない」という状態に陥ります。
実務では「もっと早くやっていれば簡単だったのに…」というケースを数多く見てきました。
「相続人申告登記」は万能ではない
義務化に合わせて新設された「相続人申告登記」は、遺産分割がすぐにできない場合の応急的な制度です。ただし、これは正式な名義変更ではなく、下記のような問題が残ります。
●不動産を売ることはできない
●担保にもできない
●結局、正式な相続登記が必要になる
あくまで「申告」であって、「解決」ではない…。この点を誤解したまま使うと、後で二度手間になります。
最低限押さえるべきポイントは?…司法書士のアドバイス
相続登記義務化後の時代において、最低限押さえるべきポイントはシンプルです。
●使うかどうかは別として、名義だけは早めに整理する
●相続関係が単純なうちに動く
●「管理できない不動産を引き継ぐこと」自体を見直す
相続登記は、不動産を活かすためだけの手続きではありません。将来の責任を明確にし、選択肢を残すための最低限の行為です。
年末年始は、実家を「放置資産」にしないための分岐点
年末年始は、家族が集まり、実家や土地の話題が自然に出る数少ない機会です。「この家、このままで大丈夫かな?」という気づきが、将来のトラブルを防ぐ第一歩になります。
相続登記義務化は、「急がせるための制度」ではありません。「これ以上、放置しないための合図」と考えるべきです。
実家が、将来の重荷になるか、きちんと整理された財産になるかの分かれ目は、相続人がいま動くかどうかにかかっています。次世代に負担を残さないよう、手続きをしっかり行いましょう。
【相続登記義務化後】
「実家を放置していないか?」確認用チェックリスト
①相続登記の状況を正確に把握しているか
□ 相続した不動産について、正式な相続登記をしている
□ まだ登記していない場合、相続発生から何年経過しているか把握している
□ 「相続人申告登記」と「正式な相続登記」の違いを理解している
※ 相続人申告登記は、義務違反を回避するための暫定的措置であり、売却・担保設定・活用ができる状態ではありません。
②名義が「誰の責任を示しているか」理解しているか
□ 登記簿上の名義が、亡くなった親のままになっていない
□ 名義が被相続人のままだと、誰が管理責任を負うのか曖昧になることを理解している
□ 行政や近隣からの連絡が、確実に届く状態か確認している
※ 名義放置は「責任を負わなくて済む」状態ではなく、責任の所在が不明確になる状態です。
③実家の管理状況を把握しているか
□ 建物の老朽化・倒壊・傾斜地・ブロック塀など、危険箇所を把握している
□ 空き家になっている場合、定期的な点検・管理をしている
□ 近隣に迷惑や危険を及ぼす可能性がないか確認している
※ 災害・事故時には、「管理していなかったこと」自体が責任判断に影響することがあります。
④固定資産税・費用の負担者が決まっているか
□ 固定資産税の納付者が明確になっている
□ 複数の相続人がいる場合、負担割合を共有している
□ 「誰かが何となく払っている」状態になっていない
※ 金銭負担の不透明さは、後の相続・売却時の紛争原因になりやすいポイントです。
⑤相続人が増える前に動いているか
□ 相続人の中に高齢者がいる場合、次の相続を想定している
□ 相続関係が単純なうちに登記を進める意識がある
□ 「そのうちやる」状態が続いていない
※ 時間が経つほど、登記は「面倒」ではなく「困難」になります。
⑥実家を「資産」ではなく「責任」として考えているか
□ 売る・貸す・住む予定がなくても、名義整理は必要だと理解している
□ 管理できない不動産を引き継ぐリスクを認識している
□ 必要であれば、手放す選択肢(売却・国庫帰属等)を検討している
※ 現在の制度では、「使わない不動産」ほど慎重な判断が必要です。
チェックリストの使い方
●すべて「YES」にする必要はありません
●「分からない項目がある」こと自体が、放置リスクのサインです
●家族で「登記してる?」「名義どうなってる?」と確認するだけでも十分です
司法書士からのひとこと
相続登記義務化は、「罰則を科すための制度」ではありません。名義を整理しないまま放置することで、将来の責任や選択肢を自ら失わないための制度です。
年末年始は、実家を「問題化する前」に向き合える、数少ないタイミングです。ぜひご自身の実家に目を向け、将来に向けた建設的な対策を立てていきましょう。
加陽 麻里布
司法書士法人永田町事務所 代表司法書士
