(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢化が進展する日本では、介護という課題が多くの人たちの肩にのしかかっています。長年にわたる介護の果てに迎えた相続で、「介護を一切担っていない」相続人から「相続は平等」と主張されたら…。日本における「介護負担」と「相続」の問題を法的視点から見ていきます。北畑総合法律事務所の代表弁護士、北畑素延氏が解説します。

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「介護の負担」と「相続」の問題

現代では様々な介護サービスを利用することができる環境が整いつつありますが、介護を行う家族にとっては、身体的に、あるいは、精神的に負担となっている側面があります。核家族化が進んでいる現代では、特定の親族に介護の負担が集中することもあるようです。他方、在宅介護でない場合には、経済的な負担があります。

 

このように、介護を「担当する親族」と「担当しない親族」との間に負担の差が生じてしまう場合があります。

 

では、親族間で介護の負担に差がある場合に、相続でその差は是正されるのでしょうか? 数人の子の間で親の介護に差があった場合を考えてみましょう。

現行の民法だと、「扶養」と「相続分」は直接連動しない

【事例】

ある高齢の男性Aさんがなくなり、相続が発生しました。Aさんの相続人は、長男のBさん、二男のCさんの2人です。Aさんは長年にわたって介護が必要な状態で、同居するCさんとその妻が、自宅介護を担ってきました。ところが、別居する長男のBさんは「平等な相続」を主張。Cさん夫妻は、Bさんが一切介護にかかわってこなかったことから強い憤りを感じ、「長年にわたる介護の事実を、相続において考慮されるべきだ」と主張しています。

 

直系血族と兄弟姉妹の間では、互いに扶養する義務(民法877条1項)がありますので、親を介護することはこの扶養義務を行ったことに該当します。しかし、現行の民法では扶養行為に差があっても、そこからストレートに相続人の相続分の割合を変更する制度を設けていません。

 

◆民法には「寄与分」「特別寄与料」という制度があるが…

ただ、この結論のままでは、公平に反しますので、民法は寄与分(民法904条の2)という制度を設けていますし、令令和元年より特別寄与料(民法1050条)という制度も施行されました。

 

そのため、先ほどの事例では、不公平があると感じるCさんが、遺産分割の場面で自己の寄与分を主張することによって、その是正を図ることになります。

 

介護を行ったことは、経済的な援助を除き、療養看護型に分類されることが多く、療養看護型の寄与分として主張されることが多いです。他方、経済的な援助は扶養型に分類されます。

 

◆相続人以外の人物に認める「特別寄与料」

寄与分が認められるには、「相続人」(民法904条の2)であることが条件なので、相続人以外の人物が被相続人の療養看護を行ったとしても、条文上、寄与分は認められません。

 

そこで、従前の実務では、相続人以外の人物、例えば、子の配偶者が被相続人の療養看護を行った場合は、相続人の履行補助者として寄与分を認めてきました。

 

ただ、この理屈では、被相続人よりも先に相続人が亡くなってしまった場合に、子の配偶者の寄与分が認められない不公平な結果となっていました。

 

この不公平を是正するために、相続人以外の「親族」の貢献も特別寄与料として認めることになり、相続人以外の「親族」が相続人に対して特別寄与料の支払いを求めることができることになりました(民法1050条)。

 

なお、特別寄与料の支払いを調停や審判で求める場合は、相続の開始及び相続人を知った時から6ヵ月を経過する前に、あるいは、相続開始の時から1年を経過する前に行う必要があります(民法1050条2項)。そのため、期間制限にはご注意下さい。

「寄与分」が認められる場合とは?

遺産分割(相続)の場面では、親の介護を行ったとして、子である相続人から療養看護型の寄与分が主張されることが多々あります。そこで、以下では、療養看護型の寄与分について言及します。

 

実は、実務上、寄与分が認められるハードルはかなり高く、寄与分が認められるためには、特別の寄与が必要とされています。これは、身分関係に基づいて通常期待される義務を超える貢献を指します。ですので、親族間の義務(夫婦間の協力扶助義務や先ほどの扶養義務)の範囲内の行為は、特別の寄与に該当しないとされています。例えば、単に病院への送迎を行ったり、病院の診療に付き合ったりしただけでは、寄与分は認められない結論になることが多いです。

 

また、相続人の寄与によって、被相続人の財産の維持または増加させたことが必要です。

 

以上のことが、寄与分が認められるために一般的に必要とされています。

「療養看護型の寄与分」が認められる場合とは?

次に、療養看護型の寄与分が認められる条件についてふれます。

 

まず、被相続人が、療養看護が必要である状態にあることが求められます。ここでは、被相続人が要介護2以上の状態にあることが目安とされています。対象となる被相続人も限定されることにご注意ください。

 

次に、寄与行為が無報酬又はこれに近い状態であることが必要です。ですので、貢献に見合う対価や報酬を得ていた場合などは、寄与分は認められません。

 

そして、寄与行為が一定期間継続していることが必要とされています。2・3ヵ月、又は、数ヵ月程度のものだと寄与分は認められない傾向にあります。

 

最後に、寄与行為が、片手間なものではなく、多大な労力や時間がかかるものであったことが必要です。これは、専従性と呼ばれるものですが、献身的な介護といえるものでなければ寄与分は認められない傾向にあります。

 

以上のことから、被相続人が介護サービスを受けている場合や通常の親族間の協力の範囲内に留まる行為に過ぎない場合には、寄与分は認められない可能性が高いです。

「争族」回避には、寄与分のハードルの理解と相続人の心情への配慮がカギ

ある相続人(子)が被相続人(親)と同居していた場合に、療養看護型の寄与分が主張されることが多いです。この場合には、特別の寄与に該当する行為、あるいは、特別の寄与に該当しない貢献を同居していた相続人が行っているために、他の相続人よりも多くの遺産がほしいと思うのも不自然ではありません。そのため、法定相続分どおりの結論での協議が成立しないことも多々あります。また、相続全体の争いが、寄与分が認められるか否かの争いに転化しているものもあります。

 

このような場合は、紛争が長期化することになってしまいます。紛争が長期化することは、当事者にとってメリットは乏しいので、寄与分とまで認められない相続人の貢献を考慮して遺産分割協議を早期に終結させるのも1つの方法です。

 

また、寄与分を主張する相続人も、寄与分のハードルを意識した上で、寄与分が認められるだけの証拠(診断書やカルテ、介護の記録等)があるかを確認し、遺産分割協議に臨むことが争族を回避するためには重要です。

 

 

北畑 素延 
北畑総合法律事務所 代表弁護士

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