(※写真はイメージです/PIXTA)

中小企業の事業承継を巡っては、後継者不足や経営者の高齢化を背景に「親族内承継は難しくなっている」という見方をされることが増えている。実際、承継の選択肢として第三者承継(M&A)や社内昇格への関心は高まり、親族内承継の割合は全体として低下傾向だ。しかし、2025年12月に公表された中小企業庁「中小企業の親族内承継に関する検討会」の中間とりまとめは、こうした受け止め方に一定の修正を促している。報告書が示したのは、「親族内承継のニーズがなくなった」という単純な結論ではなく、「承継を実行するための環境整備が十分に機能していない」という現実である。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

経営者は高齢化、事業承継の準備進まず、時間ばかり経過して…

報告書がまず指摘するのは、中小企業経営者の高齢化の進行だ。70歳を超えても現役で経営を続けるケースは珍しくなく、事業承継の準備が十分に進まないまま時間が経過している企業も少なくない。

 

かつて中小企業の事業承継の中心であった親族内承継は、子どもの数の減少や職業選択の多様化などを背景に、全体に占める割合としては低下傾向にある。近年では、社内昇格や第三者承継(M&A)といった手法への関心が高まっていることも事実である。

 

一方で、報告書は親族内承継が「選択肢として消滅した」とは整理していない。現在も一定数の企業が親族内承継を希望・選択しており、「重要な承継手段のひとつである」という位置づけは維持されている。

 

問題は、親族内承継を望みながらも、具体的な準備や判断に踏み切れない企業が少なくない点が挙げられるだろう。

事業承継税制、「あっても使われない」理由

親族内承継を支える制度として大きな役割を果たすのが、事業承継税制だ。非上場株式の相続・贈与に伴う税負担を猶予するこの制度は2009年度に創設され、2018年度には特例措置により大幅に拡充された。特例措置では、猶予対象となる株式数の制限撤廃など、制度上の要件緩和が行われている。

 

それでも報告書は、「事業承継税制を潜在的に活用するメリットがある層は年間約1.1万~1.2万社程度、存在すると推計され、当該潜在活用層と比べると、現行の活用者はおおよそ4分の1~3分の1程度と考えられるため、依然として税制の活用に躊躇する者が存在している」と指摘する。その背景として挙げられているのが、制度の分かりにくさと将来に対する不安であるという。

 

非上場株式の評価額が高い企業では、株式を相続しただけで多額の相続税が発生する可能性がある。たとえば、一般例として評価額10億円の自社株を相続した場合、各種特例を用いなければ、相続税の最高税率は55%であり、理論上は5億円を超える納税資金が必要となるケースも想定される。

 

こうした負担を軽減するための制度である一方、事業承継税制は、承継後も雇用維持や事業継続などの要件を満たし続ける必要がある。経営環境の不確実性が高まるなかで、「将来、要件を維持できるかわからない」という不安が、制度利用をためらわせる要因となっているようだ。

事業承継税制と後継者育成支援、「両輪」として進める必要性

検討会がもうひとつの重要な論点として挙げているのが「後継者育成」である。報告書は、親族内承継の課題を税制の問題だけに帰結させていない。後継者となる親族が、経営を担う準備を十分に整えられていないケースが多いことも、承継が進まない要因だと整理している。

 

会社を引き継ぐことは、単に資産を受け取ることではない。経営判断、人材マネジメント、金融機関や取引先との関係構築など、経営者としての責任を引き受けることに他ならない。

 

税負担が軽減されても、経営を任せられる体制が整っていなければ、親族内承継は現実的な選択肢とはなりにくい。このため報告書では、事業承継税制と後継者育成支援は「両輪として進める必要がある」と明確に位置づけている。

親族内承継か、第三者承継か…本当の分岐点は「準備の有無」

事業承継を巡る議論では、親族内承継か第三者承継(M&A)かという二者択一で語られることが多い。しかし、検討会報告が示唆しているのは、承継手法の優劣ではなく、「どれだけ早く、どこまで準備が進められているか」が結果を左右するという点だ。

 

親族内承継が難航する企業の多くは、後継者がいないからではなく、後継者を経営者として育てる準備が十分に行われていない。承継の意思決定が先送りされるなかで、株式の整理、権限移譲の段取り、金融機関や取引先への説明といった基本的な準備が後手に回り、結果として選択肢が狭まっていく。

 

一方、第三者承継においても準備不足は大きな制約となる。企業価値の把握や事業内容の見える化が進んでいなければ、M&A市場で適切な評価を得ることは難しい。親族内承継を断念した結果として第三者承継を検討しても、準備が不十分であれば、望まない条件での譲渡や廃業に近い選択を迫られる可能性もある。

 

早期に承継を意識し、後継者育成やガバナンス整備に取り組んでいる企業ほど、親族内承継を選ぶにしても、第三者承継へ転じるにしても、主体的な判断が可能となる。準備の有無こそが、事業承継の成否を分ける最大の分岐点と言えるだろう。

今後の制度見直しで議論される論点

中間とりまとめは、具体的な制度改正を断定するものではないが、今後検討すべき論点を示している。猶予対象となる株式数や猶予割合の在り方、手続き要件の整理に加え、承継後の成長投資や賃上げと両立できる制度設計などが挙げられている。

 

事業承継を「株式移転の瞬間」で完結させるのではなく、承継後の企業活動をどう支えるかという視点が、これまで以上に重視されている点は見逃せない。

「親族内承継は終わった」と決めつける前に

今回の検討会報告が示しているのは、親族内承継が時代遅れになったという結論ではない。親族内承継が依然として一定のニーズを持つ承継手法であることを前提に、その実行を阻んでいる要因を丁寧に整理した点に、この報告書の意義がある。

 

親族内承継には、企業文化や経営理念、長年の取引関係を比較的円滑に引き継ぎやすいという利点がある。その強みを活かすためには、早期の承継準備と、税制支援・人材育成支援を組み合わせた戦略が欠かせない。

 

「まだ先の話」と先送りしている間に、選択肢は静かに狭まっていく。親族内承継か、第三者承継か――その判断を迫られる前に、何を整えておくべきか。中小企業庁の中間とりまとめは、経営者にその現実を静かに突きつけている。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 

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