(※写真はイメージです/PIXTA)

与党は2026年度税制改正大綱を発表したが、不動産を巡る富裕層への課税の方向性が徐々に明らかになってきた。なかでも注目されるのが、相続税評価における不動産の取り扱いである。これまで「公平性の観点」から問題視されてきた、相続直前の不動産取得による節税手法について、制度面からの見直しが検討段階から具体化に向かいつつある。もっとも、大綱はあくまで基本的な方向性を示すものであり、詳細な評価方法や運用については、今後の政省令や国税庁通達で定められることになる。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

短期保有の賃貸不動産、「取得価額」を基礎とした評価へ

2026年度税制改正大綱では、相続・保有・活用の各局面で生じてきた税負担の偏りを是正する姿勢が示されており、不動産を活用した相続対策全般に一定の影響を及ぼす可能性がある。

 

とりわけ、相続直前に高額不動産を取得し、路線価や固定資産税評価額を基準とした評価によって課税価格を抑える、いわゆる「タワーマンション節税」については、見直しの対象として明確に意識されている。

 

大綱では、被相続人等が相続開始前5年以内に新築または購入した一定の賃貸用不動産について、従来の評価方法を前提としない新たな評価の考え方を導入する方向性が示された。

 

具体的には、取得価額をベースに、課税時点までの地価変動等を考慮した「実勢価格」に近い水準で評価することが検討されている。大綱では、その水準の一例として「一定割合(おおむね8割程度)」が示されているが、これはあくまで考え方の例示であり、実際にどのような割合や算定方法が採用されるかは、今後の制度設計に委ねられている。

 

この見直しが実施された場合、貸家建付地や借家権割合による評価減については、その適用効果が限定的となる可能性がある。相続直前の不動産取得によって評価額を大きく圧縮する手法は、従来より成立しにくくなると考えられる。

 

一方で、被相続人が5年以上前から保有していた土地に家屋を新築した場合など、長期保有を前提とした不動産活用については、現時点では見直しの対象外とされている。短期間での租税回避的な行為と、事業性や居住実態を伴う保有とを区別しようとする姿勢が読み取れる。

不動産小口化商品は「時価を重視した評価」を原則化

不動産小口化商品や信託受益権を通じて保有される賃貸用不動産については、より踏み込んだ整理が示された。

 

大綱では、取得時期にかかわらず、課税時点における通常の取引価額、いわゆる時価を踏まえた評価を行う方向性が明記されている。評価にあたっては、運営事業者等が算定する価格を参考とすることが想定されているようだが、それが困難な場合には、取得価額を基礎とした方法を用いることも検討対象とされている。

 

もっとも、運営事業者が算定した価格が、そのまま税務上の評価として認められるかどうかは、個別事案ごとの判断となる可能性が高い。

背景に「実勢価格」と「評価額」の乖離

日本の相続税制度では、土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基準として評価されてきた。これらはいずれも実勢価格を下回る水準で設定されることが多く、高額不動産を相続する場合、実際の経済価値と課税評価額との間に乖離が生じやすい。

 

この仕組みを利用し、相続を目前に控えた段階で都心部の高額不動産を取得するケースについては、従来から節税目的が強いとの指摘がなされてきた。国税当局も個別案件ごとに鑑定評価を用いるなどの対応を行ってきたが、制度として一律の基準が存在しなかった点が、課税の公平性という観点から課題とされていた。

相続戦略と不動産市場への影響

今回示された方向性により、富裕層の相続対策は転換点を迎えつつある。相続直前の不動産取得による評価圧縮を前提とした手法は見直しを迫られ、今後は早期からの資産移転や、時間をかけた贈与・承継、長期保有を前提とした不動産活用の重要性が高まるとみられる。

 

不動産市場においても、相続対策を主目的とした短期的な需要は一定程度落ち着く可能性がある。一方で、評価の考え方が整理されることで、市場の透明性や制度的な納得感が高まるとの見方もある。

相続対策は「短期対応」から「長期設計」へ

2026年度税制改正大綱は、相続税評価を実勢価格に近づける方向性を明確に打ち出した点で、ひとつの節目となる。相続直前の対応による節税余地は縮小する可能性があり、今後は時間をかけた計画的な資産承継がより重要となりそうだ。

 

相続対策は、個別のテクニックに依存するものから、資産の実態や保有目的を踏まえた長期的な設計へと、静かに重心を移しつつある。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 

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