AIやEV需要の高まりを受け、フィリピンの半導体・電子部品セクターは回復基調にあります。しかし、Nvidiaに代表されるAI関連市場が爆発的に成長するなか、同国の輸出予測はなぜ年5%成長という比較的控えめな数字に留まるのでしょうか。一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクター・家村均氏が、現地から最新状況を解説するフィリピンレポート。今回はフィリピンがグローバルサプライチェーンのなかで担う「後工程」の構造的役割と、高コスト体質という克服すべき課題について深掘りします。
回復予測の裏付けとリスク要因
フィリピンの主要輸出産業である半導体・電子部品セクターが、着実な回復軌道に乗っていることが示されています。フィリピン半導体・電子産業協会(SEIPI)のダニロ・ラチカ会長は、2026年(2025年通年含む)の半導体輸出が前年比で5%成長するとの見通しを示しました。この成長を牽引するのは、人工知能(AI)、電気自動車(EV)、モノのインターネット(IoT)、データセンターなどの先端技術分野における需要です。
SEIPIの修正予測によると、2025年の輸出伸び率は、当初の「横ばい」から5〜7%増へと上方修正されています。2024年第1〜3四半期の電子部品輸出額は363億2,000万ドルに達し、これはフィリピンの商品輸出総額の約58%を占める規模です。ラチカ会長は、通年の輸出額が450億〜470億ドルに達する可能性を示唆しています。主な輸出先は香港、米国、中国、日本、台湾で、引き続き米国市場の動向がカギとなります。
一方で、リスク要因も存在します。特に米国での貿易優遇措置の変更や関税政策の行方が、この5%成長予測の実現を左右する可能性があります。SEIPIは政府に対し、インフラ整備やビジネス環境の改善(Ease of Doing Business)など、フィリピンが投資先としての競争力を維持するための抜本的な改革を求めています。
一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティング
エグゼクティブディレクター
慶応義塾大学経済学部卒業後、東急電鉄に入社し、海外事業部にて、米国・豪州・ニュージーランド・東南アジアなどで不動産開発や事業再構築業務に従事。また、経営企画部門にて東急グループの流通・メデイア部門の子会社・関連会社の経営・財務管理を実施した。(約15年)
その後は、コンサルティングファーム(アクセンチュア・ユニシス)や投資ファンド(三菱UFJキャピタル)などで、企業や自治体の事業再構築、事業民営化等の支援や国内外のM&A案件のアドバイザリーを実施。現在、一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングにて、日本他の投資家および企業、ファンドなどに対してフィリピン不動産の販売やフィリピンへの事業進出のアドバイスを行っている
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