【高市早苗首相就任】為替相場への影響と今後の展望…2025年末のドル円「150~155円」と見込む声多数、160円台回復のシナリオも

【高市早苗首相就任】為替相場への影響と今後の展望…2025年末のドル円「150~155円」と見込む声多数、160円台回復のシナリオも
(※写真はイメージです/PIXTA)

高市早苗氏が自民党総裁に選出され、2025年10月21日に首相に就任したことは、日本経済に新たな風を吹き込みました。初の女性首相として、積極財政と金融緩和を志向する高市政権の誕生は、金融市場で即座に反応を呼び起こしました。とくに外国為替市場では、就任直後からドル円相場が上昇基調を強め、151円台から154円台へと急伸。この動きは単なる政治イベントの余波ではなく、日米財務相会談や米連邦公開市場委員会(FOMC)、日本銀行の金融政策決定会合といった複数の主要イベントが連鎖的に影響を与えた結果です。本稿では、これらの出来事を振り返りながら、為替動向の背景を分析し、今後の展望を探ります。

高市トレード再燃…総裁選勝利後、円安・株高の動きが顕著に

高市首相の就任は、市場で「高市トレード」と呼ばれる現象を再燃させました。総裁選での勝利が報じられた10月4日頃から(正確には週明けから)、円安・株高の動きが顕著になりました。

 

高市氏はプライマリーバランスを考慮しつつも、財政出動を積極的に推進する姿勢を示しており、これが日銀の緩和継続を後押しするとの見方が広がりました。実際、就任前の思惑だけでドル円は150円台を回復し、首相指名選挙の前日には151円台に達しました。
このような政治イベントの織り込みは、為替市場のボラティリティを高め、投資家の心理を鋭く刺激します。 

日米財務相会談と市場の反応…財政拡大期待により下値は堅調

10月下旬に東京で開催された日米財務相会談は、こうした動きをさらに加速させました。日本側の公式発表では、円安に対する直接的な懸念や、日銀への利上げ圧力といった内容は見られませんでした(日米財務大臣共同声明を踏襲)。

 

しかし、ベッセント財務長官はSNS(X)上で「日銀の正常化政策を日本政府が妨げないよう」と暗に示唆するコメントを発信。これを受け、ドル円は一時151円台後半まで下落しました。

 

過去の会談でも円安けん制が一時的な円高要因となった例がありますが、今回は高市政権の財政拡大期待が下支えとなり、相場の下値は堅調でした。その結果、ドル円は大幅な下落には至りませんでした。 

FOMCの決定とドル買い…NY市場で154円台前半まで上昇

10月28日から29日に開催されたFOMCは、ドル円の上昇を加速させるきっかけとなりました。米連邦準備制度理事会(FRB)は、フェデラルファンド金利の誘導目標を0.25パーセント引き下げ、3.75~4.00パーセントとしました。

 

これは市場予想通りでしたが、パウエル議長が会見で「12月会合での追加利下げの可能性は低い」との慎重姿勢を示した点が注目されました。これにより米長期金利が上昇し、ドル買いが強まりました。NY市場ではドル円が154円台前半まで上昇しました。

 

今回の決定は、米経済の軟着陸シナリオを裏付ける一方で、インフレ再燃リスクへの警戒を反映した内容でした。 

日銀会合と円売り加速…積極財政の見通しが円安助長

さらに、10月29日から30日に開催された日銀金融政策決定会合は、ドル円の急伸を決定づけました。日銀は政策金利を0.5パーセントに据え置き、6会合連続で変更なしとしました。

 

植田和男総裁の会見では、12月会合での利上げを示唆せず、「経済・物価の不確実性が高い」との慎重論を展開。市場は、これを好感し、日経平均株価は史上最高値を更新しました。

 

一方、ドル円では円売りが加速。会合前には、米側コメントを受けたサプライズ警戒で一時下落していた相場が、154円台中盤へ跳ね上がり、2月以来の高値を付けました。
今回の日銀の決定は7対2の賛成多数で、利上げ主張は少数意見にとどまり、全体としては緩和継続の姿勢が鮮明でした。高市首相の積極財政が、日銀の正常化を遅らせる要因になるとの見方が広がり、円安を助長しています。 

今後の展望…「円安基調の継続」が主眼となるか

これらのイベントを踏まえると、高市首相就任後のドル円上昇は、複数の要因が連動した結果といえます。

 

まず、政治的な「高市プレミアム」として財政拡大期待が円安を誘いました。日米財務相会談での米側の円安けん制は一時的な調整に過ぎず、FOMCのハト派色の後退と日銀の現状維持の慎重姿勢が、日米金利差の維持を確信させました。

 

結果として、10月上旬の147円台から月末の154円台へ、約7円の上昇を記録しています。テクニカル面でも上昇トレンドを維持しており、154円半ばの抵抗線突破が次の焦点です(11月1日時点)。 

 

今後の展望としては、円安基調の継続が主眼となります。引き続き米国の関税政策がドル高を後押しする一方、日銀は12月会合で利上げの議論を再燃させる可能性があります。
ただし、高市政権の財政出動がインフレを煽る中でも、日銀の市場との対話を素直に受け止めれば、利上げには慎重姿勢が続くと見られます。

 

市場コンセンサスでは、2025年末のドル円を150~155円と見込む声が多く、160円台回復のシナリオも浮上しています。

 

もっとも、地政学リスクや、一時的に休戦状態にある米中貿易摩擦の再燃などが変動要因となるため、ボラティリティの急上昇には注意が必要です。

 

投資家にとっては、円安メリットを活かした外貨建て資産の活用が有効ですが、リスクヘッジとしてオプション取引を検討するのも一案です。

 

高市政権の船出は、株式市場や為替市場に活力を与えました。円安は輸出企業に追い風となる一方で、輸入物価の上昇が家計を圧迫する側面もあります。

 

今後は政策当局のバランスが鍵となるでしょう(為替介入にも注意が必要です)。市場参加者の皆さんはこれらの動向を注視し、柔軟な戦略を講じていただきたいと思います。
 

 

藤田 行生
SBI FXトレード株式会社
代表取締役社長

 

※ 本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

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